研究開発
技術者インタビュー

風力発電設備用雷電流計測装置

  • 藤岡 博文
  • 酒井 繁美
  • 加藤 修

風力発電設備の導入量は、2010年を起点として、2040年には15倍以上になると見込まれていますが、発電容量の増加により風車の大型化が進み、その高さから受雷頻度が増加しています。それに伴い、世界的にも特異に「エネルギー(電荷量)」が大きい、日本海沿岸の冬季雷による風車のブレード損傷、飛散などの雷被害が多発しています。

東光高岳の雷電流計測装置はそのような落雷による風車の被害状況を正確に把握し保守点検を実施するうえで大きな役目を果たします。風車への落雷時、落雷発生時刻を取得するとともに、落雷電流の波高値および電荷量を計測し、計測値を出力判定条件とした風車の自動停止に利用可能な落雷発生接点信号を出力する機能などを有しています。

再生可能エネルギーの導入拡大に向けて、お客さまの多様化するニーズや標準規格化に対応するために、雷電流計測装置の改良を行っています。2018年度に実施した従来品からの機能アップと今後の取り組みについてご紹介します。

Technology

故障原因の正確な把握を可能にした計測性能と機能アップ

当社の雷電流計測装置は国内トップシェアを誇っており、2019年度の時点で風力発電設備の国内総設置基数のおよそ25%以上に導入実績があります。また、2015年頃から新規設置基数の50%以上に納入しており、特に日本海沿岸の冬季雷地域では90%以上のシェア率を誇っています。

2018年度に、当社の雷電流計測装置は、従来品から計測性能と機能の向上を図りました。
また今後需要が高まっていくと想定されている洋上風力発電設備は、人が立ち入っての保守が容易ではありませんので、遠隔から風力発電設備の保守を実現する技術についても検討する予定です。

Profile

  • 藤岡 博文
    藤岡 博文
    技術開発本部
    技術研究所
    ICT技術グループ
    主任
  • 酒井 繁美
    酒井 繁美
    エネルギーソリューション事業本部
    電力システム製造部
    保護制御装置設計グループ
    主任
  • 加藤 修
    加藤 修
    電力プラント事業本部
    電力インフラ営業部
    システムグループ
    副課長

多様化するニーズや標準規格化に合わせた機器の設計

酒井当社の雷電流計測装置は風車のタワー脚部に設置されたロゴウスキーコイルと呼ばれる電流センサを使って、落雷電流の波高値や電荷量を値として計測します。GPS衛星の利用によって正確な落雷発生時刻を取得することも可能です。また、落雷データの遠隔収集機能、メールによる落雷発生の通知機能を有しています。

加藤メール通知機能を導入した背景には、お客さまからの落雷電流の計測値をリアルタイムで把握したいとのご要望がありました。保守点検の必要性を検討するなど、早急な判断に役立てられています。

酒井また、経済産業省が2015年に掲げた風力発電設備用の雷被害再発防止対策(落雷時の運転停止および速やかな点検実施)を実現するため、雷電流計測装置は風車への落雷を検出した際、落雷電流の計測値を出力判定条件とした、接点信号を出力する機能を備えています。その信号を利用して、落雷した風車のみを自動停止させ、落雷しなかった風車は運転を継続することで、風力発電設備の稼働率の低下を抑制することができます。

藤岡さらに標準規格化に対応するために、2018年に当社の雷電流計測装置は従来品から次のような機能アップを行いました。

  • 周波数帯域の下限値を0.1 Hz にすることで、継続時間が長く大きなエネルギーを有する、日本海沿岸地域の冬季雷電流も正確に計測が可能となりました。
  • 最大計測電流200 kA 品をラインナップし、100 kAを超過する大電流の計測に対応しました。
  • トリガレベルを最大計測電流の2%から1%に下げ、より小さな雷電流も検出可能(最大計測電流100 kAの場合)となりました。
  • 落雷発生接点信号出力の判定条件(電流波高値と電荷量)に、「or条件」に加えて「and 条件」を追加することで、より多彩な運用が可能となりました。
  • 電源電圧AC230 V 品をラインナップし、風力発電設備の国際標準に対応しました。

酒井計測性能アップにより、多様な落雷電流の電流波高値、電荷量を計測可能となったことから、雷被害の原因究明に向けて、より正確な風車故障原因の把握および耐雷設計の妥当性確認が可能になりました。

藤岡雷電流計測装置の検証では、雷電流の計測に支障をきたすノイズ対策に苦労しました。誤検出をしてしまい、正確な雷電流を計測できなければ、お客さまにご迷惑がかかりますので、その点は綿密な検証を行っています。また従来ですと、電流波高値と電荷量の算出には、雷電流波形を記録して計算を行って検証をしていましたが、リアルタイムで運用する必要がある雷電流計測装置では、一度記録して検証することができません。ノイズの除去やリアルタイムで計測するための設計が特に大変でした。

洋上風力への参入や、さらなる機能向上に向けて

加藤次期バージョンではお客さまニーズを捉え、上位システムとの連系を図るクライアント機能の追加を検討しています。

藤岡落雷を検出した風車を止めて点検した結果、異常が検出されず、実は停止する必要がなかったというケースもあります。停止していた間は発電できないため、稼働率の低下を招いてしまいます。解決策として、風車の運転状態を常時監視しているシステムのデータと落雷データをリアルタイムで比較解析して風車停止の有無を判断するための研究が進められています。その実用化に向けて、当社の雷電流計測装置も状態監視システムとの連系を図る必要があり、検討しています。

酒井現在風車はほぼ陸上に建設されていますが、今後は日本も洋上風力発電設備の増加が見込まれています。洋上風車は陸上とは異なり、用地確保や運搬の制限がありませんので、大容量化、すなわち大型化しています。この大型な洋上風車への雷電流計測装置の導入推進のためには、電流センサを見直す必要があります。また、容易に風車にアクセスして点検できない難点もあるため、人が介在せずにリモート操作が可能な保守技術が望まれており、今後検討していく予定です。

藤岡風車は建設後、基本的に20年運用するものですので、その一部である雷電流計測装置も常に必要な保守を施せるよう、会社の中で技術を継承していかなければなりません。後進の育成にも重きを置きながら研究に携わっています。
2015年に経済産業省が掲げた雷被害再発防止対策により、いっそう雷電流計測装置に対する社会的責任を感じています。
今後は、洋上風力発電設備への展開や稼働率向上のための取り組みがあります。また、設計上故障につながる要素を減らし、少しでも落雷によるお客さまの損失を減らすことが目標です。

酒井雷電流計測装置は、一般の方にはあまりなじみがない機器かもしれません。しかし、風車の雷被害を防止する重大な製品設計の一端を担っている自負があり、誇りをもって業務に携わっています。お客さまのニーズを汲み取り喜んでいただけるような設計を心がけたいです。

加藤今後は国内メーカーに加えて国外メーカーと競合することも予想されます。洋上風力への参入も含め、国内トップシェアの実力を活かして、競合他社との競争に打ち勝つよう営業活動していきます。

最新の記事

ページの先頭に戻る