研究開発
技術者インタビュー

IEC61850対応のデジタル変電所向け監視制御システム、配電用変電所遠方監視制御装置

  • 成田 和彦
  • 佐藤 一男
  • 川俣 陽輝

日本では、経済発展に伴う電力需要の増大に対応してさまざまな設備を拡充し、信頼性の高い電力供給網の構築をしてきました。そして、近年の電力自由化への動きに伴って、電力供給はさらに高い信頼性と効率性が求められてきています。

高度な情報化社会への移行もまた、それに拍車をかけます。例えば停電によって銀行やカード会社の基幹システムが止まってしまったら数多くの商取引に関する決済が止まってしまいます。猛暑の夏や厳寒の冬に冷暖房器具が使えなくなったら?電気が止まってしまうことで私たちの暮らしが受ける影響は数知れません。

そこでいま、広範囲に渡る停電が起きた場合、迅速に復旧するとともに、どこがどのような原因で停電しており、復旧にどのくらいかかるのかといった情報を的確に把握して発信していくことが以前にも増して求められています。また、そもそも停電自体を未然に回避することもしっかり考えていかなくてはなりません。そこで重要となるのが電力系統運用を根底で支えている変電所監視制御システムです。

東光高岳では、こうした変電所監視制御システムへの新たなニーズに対応するために、国際標準規格であるIEC61850を採用したデジタル変電所向け監視制御システムを開発し、市場に提供しています。

Technology

変電所の監視制御システムを簡素化して改修コストを削減するIEC61850に準拠したデジタル化の推進。

変電所の監視制御システムは、電力の変圧を行う変電所や、発電・送電の接続を切り替える開閉所(変電所とは便宜上、わけてこのようによばれています)に設置されています。電力設備が想定どおりに動作しているか監視し、電力の遮断器をオン・オフする操作を行ったりするためのものです。そのほか各種の自動制御機能や故障部位の自動復旧、運転・保守の支援、それらの動きを記録して後から動作を振り返ることができる機能を持っています。

多くが1980年代後半の電力系統拡充期に設置された変電所設備は、20~30年の高経年化が進んでおり、多くの設備が更新時期を迎えました。その中で、更新工事の効率化やさらなる信頼性の向上、保守・運用の高度化が求められ、各変電所はこれらを実現するためにデジタル化を進めていく予定です。

デジタル化のメリットは、設備全体を簡潔化してコストを抑えることができることと、監視制御システムを変電所設備から切り離して、遠方から操作できるようになることです。それにより複数の変電所を一個所で一元管理することも可能です。

これまでは、電力設備から設備情報を収集する装置まで、情報ごとに数多くのメタル線を敷設し、電気信号にて状態把握や機器制御を行ってきました。近年のデジタル化とは、この多数のメタル線を必要最小限の通信線に替え、通信データとして装置間を授受することで簡素化と更新時のコスト削減に大きく寄与します。また、より多くの情報を収集することが可能となります。

国際標準規格のIEC61850を基準に全世界で数百個所以上のデジタル化した変電所が構築されています。今後は電力系統の運用管理のグローバルスタンダードとなるとも言われており、東光高岳ではIEC61850を採用した監視制御システムの構築に力を注いでいます。

Profile

  • 成田 和彦
    成田 和彦
    電力プラント事業本部
    電力システム製造部
    保護制御装置設計グループ
    副課⾧
  • 佐藤 一男
    佐藤 一男
    電力プラント事業本部
    電力システム製造部
    保護制御装置設計グループ
    副課⾧
  • 川俣 陽輝
    川俣 陽輝
    電力プラント事業本部
    電力システム製造部
    保護制御装置設計グループ
    主任

IEC61850に準拠することで、汎用性が拡大
市場競争も生まれ、より良い製品が誕生するきっかけに。

成田従来のシステムは特定のベンダーのフォーマットにしたがって作られており、仕組みがわからず他のベンダーでは更新の対応ができないといった問題がありました。それに対して世界的な標準規格であるIEC61850に準拠していれば、フォーマットや仕組みについて共有できますので、他のベンダーが対応することも可能になります。近年、変電所の設備が老朽化しているので対応についての相談を各電力会社様からいただくことが多くなりました。その中で進め方について協議するうちに世界標準のIEC61850を適用する方向に決まっていきました。これによって複数のベンダーが同一の規格で商品を開発することになりますから、必然的に市場競争も生まれてより良い製品の提供につながっていくと考えられています。

佐藤実際に性能はかなり向上しました。これまでは通信速度の問題もあってオペレート側に送れる情報も少なく、遅延も多かったのですが、IEC61850は標準フォーマットでかなり大容量の通信速度が求められていますから、それに対応することで膨大な情報を転送して取捨選択して幅広く使えるようになりました。また、ベンダー自身が考えることが少なくなる分、IEC61850に適合していたほうがトータルな導入コストも安くなります。

川俣通信に関しては光ファイバーでもキャリアの4G回線でもできますが、セキュリティ上の問題がありますので、現状はワイヤレスでの通信は行わないようにしています。すべてケーブルを介したセキュリティの高い、独自の接続方法を採っています。

佐藤2017年の9月ごろから、東京電力パワーグリッド様と他メーカーの4社で打ち合わせをし、今回のプロジェクトがスタートしました。IEC61850の規格は、国内ではノウハウがあるところが少なく、ひたすら英語で書かれた規格を読み解く毎日でした。規格は10数冊あり、なかには400ページを超えるものがあるのですが、系統立てて読んでいかないとわからなくなるもので、実際読み解きながら心細くなることもありました。

川俣IEC61850の規格に準拠したのは、汎用性を求めてのことですが、先行してIEC61850を使う装置を開発していたので、東光高岳ならできるという判断につながりました。当社には、技術研究所というところがあり、そこで得られたリソースも活用できます。そうしたことも判断の材料になりました。

運用によって蓄積されるビッグデータの解析で将来は、停電などの事故を未然に防ぐことも可能に。

成田検証中のシステムは、機器の制御・故障表示・計測表示、つまり変電所全体を監視制御する「SAS(Substation Automation System)」と、電力設備との受け渡しを行う「BCU(Bay Control Unit)」「PIU(Process Interface Unit)」、あと保護リレーで構成されます。基本、SASは、すべてのデータが見られて、その中から必要なデータだけを抜き出して画面に表示します。BCUは、変電所の中のあらゆる設備の情報を集めてくるところです。たとえば、遮断器の状態がどうなっているかといった情報を集めてきます。また、今度はSASからの制御コマンドを受けて、設備をコントロールする最終端末となります。保護リレーは、電力系統から電流電圧を取り込んで、電力設備の故障などを迅速に発見して、直前の遮断器を切るといった事故除去の役割をします。

佐藤デジタル化のメリットの一つとしては、従来は電力設備からI/F(インタフェース)部分までをメタルケーブルで長く引き回さないといけなかったのですが、デジタル化によって設備の直近にBCU・PIUを置けば、そこからケーブル1本でSASやTC(テレコン)につないでコントロールできるようになった点です。これによりメタルケーブルの物量を圧倒的に減らすことができ、設備が簡素化されて改修コストも削減することができました。

川俣今後、IEC61850に準拠した場合に、他のどのようなベンダーでも接続ができるのか検証しています。この検証を2021年度にかけて各供給メーカーの共同検証を含めて実施していく予定です。それが可能になれば、どのようなベンダーが設備の構築や更新を手掛けても実行可能になります。現在は、そこが大きな課題です。また、運用にしたがって蓄積されるデータも、ビッグデータとして共有できるようになります。そうすれば、施設が何年でどの部分に支障が起こるのかをデータから解析して寿命を予測することも可能になります。そうすると例えば、設備故障による停電の可能性を事前に予測して回避するような予防保全も見込めます。

成田は、高校時代からエレクトロニクスの分野を学んできました。その流れで東光高岳へ入社。「希望どおりの進路へ進んだ」と自分でも思っているそうです。毎日、仕事に没頭することを楽しく思い、自分のやっていることが会社や社会の未来につながっていることに喜びを感じています。

佐藤は、大学で送電・発電関連を学んで入社。入社以来、開発にかかわる仕事が多く、常に新しいことを学んでいくことに充足感を感じています。いまでは、IEC61850というキーワードが社内でも聞かれるようになってきており、経験がある部署の一員として頼りにされ始めています。

川俣は、同じ大学から入社する学生も多く、先輩も豊富で東光高岳は親密感も高かったそうです。学生時代には、電子制御を学び「コマンドを出して、命令のとおりに物が動く」ということが大好きでした。機械を操作するようすは永遠の機械好き少年のようです。あれこれと試行錯誤しながら、楽しそうに仕事をしています。

3人は、社内の席も近く、一人で悩むときは、互いに声を掛け合い、情報を共有し、励ましあいながら未来の監視制御技術に向けて今日も取り組んでいます。

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