東光高岳技報 No.12 2025

再生可能エネルギーの普及拡大や電力の
安定供給・高度利用を実現するDR shifTer

中山 匡 Tadashi Nakayama 太尾 健 Takeshi Tao 久保 滋 Shigeru Kubo

当社では2017年度に東京電力グループの構想を基に,蓄電池などのリソースを電力の需給調整に使用するため,遠隔・統合制御する機器,DR shifTerを開発した。当社はDR shifTerを用い,2017年度,2018年度のVPP実証試験に東京電力エナジーパートナー株式会社とともに参加し,2021年度から開始された需給調整市場にも参入してきた。現状,需給調整市場では一次調整力から三次調整力という区分で取引がされており,DR shifTerは三次調整力で使用されてきた。今後もDR shifTerによる電力の安定供給・高度利用への更なる貢献のため,一次調整力への対応を推進している。本稿では一次調整力に対応するためのDR shifTerの改良内容,および実証試験での成果を説明する。

1はじめに

近年,太陽光発電や蓄電池,電気自動車など,需要家側に導入される分散化された小規模なエネルギーリソース(以下,リソース)の普及が進んできた。需要家が有するリソースは,電力の需給バランスを調整するデマンドレスポンス(以下,DR)にも使用される。また,複数のリソースを束ねて遠隔・統合制御する仕組みを「仮想発電所(以下,VPP)」とよぶ。

各需要家が持つリソースの中でも,蓄電池は充放電ができ,天候に左右されることもないため,VPPにおける調整力注1)としての期待が大きい。しかし,既存の蓄電池システムを遠隔からのDRに対応させるためには,メーカや機種ごとに異なる改造が必要となり,多くの費用と労力を必要とする。

そこで,東京電力グループでは,蓄電池などのリソースを,メーカや機種に依存せず遠隔DRする仕組みを考案した。当社ではこの技術を実現するための機器,DR shifTerを2017年度に開発した。そのDR shifTerを用い,2017年度,2018年度のVPP実証試験に東京電力エナジーパートナー株式会社(以下,東電EP)とともに参加してきた(1),(2)

今後,DR shifTerを需給調整市場の一次調整力(後述)で活用するために,2023年度に技術実証,制度的課題の洗い出しを行い,2024年度にはその実証試験の結果を基に改良,実証試験を行ってきた。

本稿では一次調整力で活用するために改良したDR shifTerの内容とその実証試験の結果について述べる。

2需給調整市場とは

一般送配電事業者注2)が電力の需給バランスを調整するために,「需給調整市場」が2021年4月1日に創設された。この市場では需給予測誤差,時間内変動,電源脱落,再エネ予測誤差の4つの事象に対応する調整力が必要とされ,順次新しい調整力が導入,市場取引が開始されている(3)

当社はVPP実証試験で得られた知見をもとに,需給調整市場の三次調整力に,東電EPとともにDR shifTerを用いて2021年より参入している。現在,需給調整市場は応動時間注3)の速さの違いにより,一次調整力から三次調整力までの区分があり運用されている。一次調整力は,電力系統を安定させるために必要な調整力であり,周波数の維持,事故時の対応等で機能する。

DR shifTerを適用している三次調整力②注4)と,今後適用を目指している一次調整力について主な特徴を表1に示す。

表1 一次調整力と三次調整力②の主な特徴
特徴 一次調整力 三次調整力②
応動時間 10秒以内 60分以内
継続時間注5) 5分以上 30分
特徴 自動で周波数補正,即時対応 人的操作,計画対応,持続的な需給調整
使用目的 周波数の瞬間的な安定化 再生可能エネルギーの予測誤差に対応

2.1 三次調整力②

三次調整力②は,再エネ予測誤差に対応するための取引である。応動時間は他の取引より長く,多様なリソースが使用できるように設定されている。

2.2 一次調整力

一次調整力は瞬間的な需給バランスの乱れを補正し,周波数を安定させるための取引である。発電所の故障などの電源脱落の調整力としても使用されるため,数秒以内に応動することが求められる。なお,現状では,この一次調整力に,需要家側での蓄電池を用いて参入している製品・サービスは少ないため,DR shifTerを一次調整力に適用する取り組みは重要であるという認識で,開発・実証試験を推進している。

3一次調整力への参入要件

一次調整力に参入するためには,使用するリソースが必要な応動時間に適合しているかを確認するための事前審査がある。事前審査は平常時と異常時に大別されており,異常時は大規模電源脱落等により0.2Hz以下の周波数低下を継続した場合を指している。

図1に事前審査(平常時)の合格条件の一例を示す。ΔPはリソースの放電による受電電力(電力会社から需要家が受け取る電力)の変化量,Δfは商用周波数を基準とした偏差を表す。調定率注6)曲線を目標値とし,ΔkW供出可能量注7)の±10%の許容範囲内に収まるよう,周波数の変動に合わせたリソースの放電電力の調整が求められている。許容範囲内への滞在率注8)は90%以上で合格となる。その他,一次調整力の技術要件の一例を表2に示す。

赤線:調定率曲線,青丸:実出力,黄部:許容範囲
図1 事前審査(平常時)の合格条件一例(4)
表2 一次調整力 技術要件一例
項目 要件 概要
計測間隔 0.1秒以下 周波数の計測間隔
計測誤差 ±0.02Hz以下 周波数の計測誤差範囲
不感帯 ±0.01Hz以下 周波数が変化してもリソースの出力変化をしない範囲
遅れ時間 2秒以内 周波数の変化からリソースが出力を変化させるのに要する時間

4一次調整力参入への対応

三次調整力②に対応しているこれまでのDR shifTerに対して,一次調整力参入に必要となる機能の追加や拡張を行った。

4.1 周波数の取り込み

これまでのDR shifTerは周波数を測定する機能を有していなかったため,周波数を計測する機器および計測データの取り込み機能の追加を行った。

4.2 1秒値の計測および記録

三次調整力②では制御中の受電電力の1分値を計測し,記録したデータを市場運用者に通知する機能が必要要件であった。一方,一次調整力では,受電電力の1秒値および周波数を計測し,記録したデータを市場運用者に通知する機能が必要であり,機能の拡張を行った。

4.3 制御方式の改良

DR shifTerは,蓄電池システムを放電制御するための制御方式として,電力の「shifT技術(smart harmony information from TEPCO)」と称する技術を採用している(1)。ただし,この制御方式では周波数の偏差に基づく充放電量を調整する機能を持っていない。そのため,shifT技術をもとに周波数の偏差に基づく充放電量を調整する機能を追加した制御方式を考案,開発を行った。

5一次調整力実証試験

一次調整力に参入することを目的として,需要家にて実際に使用されているNaS電池システムで実証試験を行った。

5.1 試験構成

試験構成を図2に示す。一次調整力への対応を行った新型DR shifTerとNaS電池システム間の通信および受電電力の計測には4-20mA信号を使用し,試験結果をロガーにて計測・記録している。また,交流電源装置を使用して周波数の各種特定パターンを再現できる試験構成としている。

図2 試験構成

5.2 試験方法

一次調整力では,周波数の変動にあわせてリソースが放電,または充電を行い,受電電力を調整する必要がある。しかし,NaS電池システムでは急速に放電,充電を切り替えるとその反動で充放電量が大きく変動することがある。そのため,一定量の放電をさせつつ,周波数の偏差に応じて放電量を変化させる方法で行った。今回は,2つの周波数変動パターンで試験を実施した。

(1)商用周波数を基準に周波数を上下させる方法

交流電源装置により周波数を図3のように意図的に変動させることで,NaS電池システムが想定する放電電力になることを確認した。

図3 周波数変動パターン(パターン1)

(2)商用周波数を基準に周波数を下げる方法

NaS電池システムの放電量が増える場合に特化したパターンも行った。具体的には,周波数を下げる方向にのみ変動させた(図4)。本パターンは,放電方向を片側に絞ることにより,ΔkW供出可能量を増やすことができるため,図1の許容範囲を広げることができることから設定している。

図4 周波数変動パターン(パターン2)

5.3 試験結果

(1)商用周波数を基準に周波数を上下させる方法

試験方法の図3に示す周波数変動パターンで2024年度に実施した電力量の1秒値の実測と目標値のグラフを図5に示す。また,参考として2023年度に実施した試験結果を図6に示す。

図5図6の試験結果から,2023年度と比較して2024年度の試験結果では大きな振動波形は取り除かれ,目標値に沿った受電電力の変動になっていることが分かる。

しかし,試験結果を詳細に確認すると,許容範囲内の滞在率は約70%であり,一次調整力参入要件である90%以上については満たしていなかった。

(2)商用周波数を基準に周波数を下げる方法

試験方法の図4に示す周波数変動パターンで試験した結果を図7に示す。前述した図5の試験結果と大差がないように見えるが,誤差範囲内の滞在率は95%と大きく向上した。すなわち,リソースのΔkW供出可能量を調整することにより,一次調整力参入要件の許容範囲内に調整可能であることを実証した。

なお,放電電力が大きく変わる際にはハンチング現象注9)が発生し,一次調整力参入要件である遅れ時間2秒以下を逸脱している部分もあることが明らかとなった。振動成分の制御に関わる機能の改良などの対策が必要である。

図5 2024年度実証試験 1秒値と目標値(一部抜粋)
図6 2023年度実証試験 1秒値と目標値(一部抜粋)
図7 2024年度実証試験 1秒値と目標値(商用周波数を基準に周波数を下げる方法)(一部抜粋)

6将来を見据えた機器点制御

これまでに紹介している実証試験の制御方法は受電点制御であり,受電点(受電電力)の計測情報に基づいて制御を行っている。

一方で,機器点制御は,機器点(リソースの充放電電力)を計測し,その値を基に制御する方法である。

受電点制御の場合には,受電点を計測しながら制御を行うため,負荷による変動が制御にも影響してくる。それに対し,機器点制御の場合には蓄電池の制御機器によるものの,他の影響を受けることが少なく,制御がしやすいのが利点である。

現状においては,需給調整市場における機器点制御の区分は用意されていない。しかし,今後,制度化される可能性も見据え(5),機器点制御での実証試験(図3の周波数変動パターン)も実施しており,許容範囲内の滞在率も97%と良好な結果を得られている。

7まとめ

現在,需給調整市場で使用しているDR shifTerの更なる高度利用と活用シーン拡大のため,一次調整力参入に向けた開発,実証試験を推進している。一部課題はあるが,需給調整市場の一次調整力への参入要件を満たす開発成果が得られてきている。

現状では,需給調整市場に一次調整力の区分はあるものの,全体的に約定量注10)が少なく,一次調整力の需要に対して未達率が高い状況である。再生可能エネルギーの普及拡大や電力の安定供給,高度利用に大きく貢献するDR shifTerの改良開発を推進し,一次調整力の市場にも参入を図っていきたい。

■参考文献

(1)細谷雅樹,原正典,田中晃司:「DRshifTer(シフター)の開発」,東光高岳技報No.5(2018)

(2)細谷雅樹,中山匡,田中晃司:「2019年度VPP実証への取り組み(DRshifTerの改良)」,東光高岳技報No.7(2020)

(3)一般社団法人電力需給調整力取引所:「需給調整市場かいせつ資料」,(2025年3月14日)

(4)電力需給調整力取引所 取引ガイド(全商品)第7版

(5)調整力の細分化及び広域調達の技術的検討に関する作業会事務局:需給調整市場における機器個別計測・低圧リソース導入に向けた詳細検討について(2023年6月29日)

■語句説明

注1) 調整力:発電事業者,小売電気事業者および一般送配電事業者は,実需給1時間前の前後で役割を分担して需給を一致させる。実需給1時間前の後に残った誤差など,あらかじめ把握できない需要と供給の差を一般送配電事業者が一致させるために使う供給力が調整力である。

注2) 一般送配電事業者:送電線・配電線などの送配電網を管理し,電気を発電所からお客さまへ届ける事業者。

注3) 応動時間:需給調整市場において,一般送配電事業者が指令を出してから,リソースが指令値まで出力を変化するのに要する時間。

注4) 三次調整力②:三次調整力には①と②の2種類があり,その違いは利用目的と応動時間等である。

注5) 継続時間:リソースが電力需給調整のために稼働している時間。

注6) 調定率:周波数変化に対するリソースの出力変化の割合を表しており,例えば「調定率5%」の場合,5%の周波数変動(50Hz系では2.5Hzの変動)が生じたとき,リソースの定格出力の100%が応動することを意味しており,調定率が小さいほど周波数に敏感に応動する。

注7) ΔkW供出可能量:リソースが需給調整市場において供給できる電力の最大値。

注8) 滞在率:1秒値(1秒間における電力値の平均値)が許容範囲内にどれだけ収まったかをパーセントで表した数値。

注9) ハンチング現象:充放電電力が目標値の付近で安定せず,上下に変動する現象。

注10) 約定量:需給調整市場において,売買が成立した電力量のこと。

中山 匡
戦略技術研究所 技術開発センター
ICT技術グループ 所属

太尾 健
東京電力エナジーパートナー株式会社
カスタマーテクノロジーイノベーション部 所属

久保 滋
東京電力エナジーパートナー株式会社
カスタマーテクノロジーイノベーション部  所属

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