電力の安定供給と高度利用へ貢献する
PowerFactoryによる電圧変動解析技術
森 佑介 Yusuke Mori
カーボンニュートラルの実現に向けて,再生可能エネルギーの導入が進められているなかで,様々な課題への対応が求められており,その検討に電力系統解析技術の活用は欠かすことができない。そのなかでも,潮流解析は従来から広く行われ,電力潮流や電圧分布の予測に利用されてきた。しかし,再生可能エネルギーの導入拡大に伴い,電力系統の運用・管理は複雑・高度化している。これに対応するためには,負荷変動だけでなく,再生可能エネルギーの出力変動,各種機器の制御などの時間変化を考慮した電力系統解析が重要になる。本稿では,PowerFactoryによる各種時間変化を考慮した電圧変動解析技術について,配電系統にPVの導入が進んだことを想定した解析例と併せて紹介する。
1はじめに
近年,世界的に環境意識が高まり,脱炭素化に向けた流れが強まっている。日本においても,2020年に「2050年カーボンニュートラル」が宣言された。その実現に向け第7次エネルギー基本計画では,電源構成における再生可能エネルギー(以下,再エネ)の比率を4~5割程度に拡大する方針が示されている(1)。このようにカーボンニュートラルの実現に向けて,再エネの導入が進められていくなかで,以下のように様々な課題への対応が必要となる。
(1)電力系統事故時の安全確保や復旧対策の早期立案
(2)火力発電等の需給調整力・周波数維持能力の低下
(3)慣性力不足による周波数変動率の増加
(4)電圧変動の増大
(5)高調波や電圧フリッカなど電力品質への影響
これら各種課題に対して,様々な対応策やルール制定の検討が進められているが,その過程において電力系統解析技術の活用は欠かすことはできない。
この電力系統解析技術のなかでも,従来から潮流解析が広く行われ,各送配電線に流れる電力潮流や電圧分布などの予測に利用されてきた。一般的な潮流解析においては,エンジニアが最も過酷な条件を想定し,特定の時間断面における潮流や電圧分布を求める。しかし,太陽光発電(以下,PV)などの再エネ導入増加に伴い,電力系統の運用・管理は複雑・高度化しており,これからの電力系統のあり方を一般的な潮流解析だけで検討するのは困難である。具体的には,負荷変動だけでなく,再エネの出力変動,蓄電池の充放電制御,各種機器の状態変更(変圧器のタップ切替注1)など)があり,これらの時間変化を考慮した電力系統解析技術が重要になると考えられる。
東光高岳においては,ドイツのDIgSILENT社が開発・提供している総合電力系統解析ソフトPowerFactoryの国内総代理店として,国内展開に向けた活動や電力系統解析技術の活用検討を進めている(2)。PowerFactoryでは,「Quasi-Dynamic Simulation」機能を追加することで,前述の各種時間変化を考慮した潮流解析が可能となる。本稿では,PowerFactoryを利用し,配電系統にPVの導入が進んだことを想定して,電圧変動を解析した例について紹介する。
2配電系統の電圧調整と課題
配電系統の電圧について,低圧配電線においては電気事業法施行規則により,101±6 V/202±20 Vになるように調整する必要がある。高圧配電線においては,法律上の維持範囲は定められていないものの,健全な配電系統を維持するため,概ね変動幅が5~10%以下となるように運用・管理されている(3)。しかし,配電系統へのPV導入量が増加すると逆潮流注2)により電圧変動が大きくなり,適正電圧の維持が難しくなる可能性がある。
配電系統の電圧を適正に維持するため,以下に示す電圧調整が行われており,PVの導入量増加時には,これらの電圧調整をより適切に行うことが求められる。
(1)配電用変電所変圧器のタップ切替
この方法は,時間によってタップを切り替える方式や負荷電流に応じて自動的に調整する方式などがある。ただし,負荷特性や再エネの接続状況が異なるフィーダ注3)を有する変圧器の場合,この対応だけですべての箇所の電圧を適正に維持することが難しくなる。
(2)SVR(Step Voltage Regulator)による電圧調整
SVRは,高圧配電線路の途中に設置され,自動的なタップ切替により適正電圧を維持するものである。従来のSVRは逆潮流を想定しない制御仕様であったが,近年では逆潮流にも対応したSVRもある(4)。
(3)SVC(Static Var Compensator)などによる電圧調整
SVCは,連続的に調整した無効電力を電力系統に出力することで電圧を調整する装置であり,SVRよりも高速な調整が可能である。
(4)柱上変圧器による低圧配電線の電圧調整
この方法は,柱上変圧器のタップ切替により,低圧配電線の電圧を調整するものである。東光高岳では,負荷が接続された状態で自律的にタップ切替を制御するオートタップチェンジャー付き柱上変圧器も取り扱っている。
(5)PCS(Power Conditioning System)による出力制御
PCSは,PVにより得られた直流電力を交流電力に変換するものである。電力変換機能の他にも,電力系統の異常検出および解列注4),PVの出力制御機能を有する。出力制御方法としては,力率一定制御による電圧変動抑制が現在の主流であるが,PVの導入量増加に対応する柔軟な電圧変動対策としてVolt-var制御注5)などの検討も進められている(5)。
以上のように,PVの導入量増加に伴い,配電系統の適正な電圧維持に関する検討が重要になるが,その際には,負荷や再エネの出力変動,上記(1)~(5)などを考慮する必要がある。したがって,エンジニアがこれらすべてを考慮して,電圧変動に対して最も過酷な条件を想定することは難しいため,各種時間依存性を考慮した潮流解析により電力系統構成や運用・管理方法を検討する必要がある。
次章では,PowerFactoryの「Quasi-Dynamic Simulation」機能を利用し,各種時間変化を考慮した潮流解析の例を紹介する。
3時間変化を考慮した潮流解析
3.1 解析モデル
図1に示すように,1台の配電用変電所変圧器に,負荷特性やPVの導入状況が異なる複数のフィーダが接続されたモデルを考える。本解析では,複数台の柱上変圧器,各種負荷,PVなどを一つの要素に集約している。各フィーダの亘長は10kmを想定しており,等間隔に負荷やPVを接続している。各フィーダの概要を表1に示す。
図1 解析モデルイメージ
図1のLoad1は一般的な住宅負荷を想定しており,Load2はヒートポンプが多く設置され,深夜帯の消費電力が大きい住宅負荷を想定している。また,Load2にはPVを併設した。それぞれの日負荷曲線およびPV出力を図2に示す。同図は,1日における負荷の最大値,発電量の最大値を1p.u.として示している。それぞれの負荷特性は文献(6)を参考に,PV出力は快晴を想定して設定した。
表1 各フィーダの概要
フィーダ No. |
負荷特性 |
PV |
配電線電圧 調整用SVR |
| 1 |
一般的な住宅負荷 |
なし |
なし |
| 2 |
一般的な住宅負荷とヒート ポンプの設置が多い住宅負荷 |
あり |
なし |
| 3 |
一般的な住宅負荷とヒート ポンプの設置が多い住宅負荷 |
あり |
あり |
図2 日負荷曲線およびPV出力
3.2 解析条件およびパラメータ
前述のとおり,配電系統の電圧調整方法として複数の方法があるが,本解析では現象を理解しやすくするため,以下の計算仮定を設けた。
・配電用変電所の送り出し電圧は,フィーダ1の全ての電圧が±5%以内となるタップに調整し,そのタップで固定とした。
・電圧逸脱に伴うPVの解列などはないものとした。
・柱上変圧器,SVRの漏れインピーダンス,損失は省略した。
・SVRは逆潮流の有無によらずタップ制御するものとした。SVRは定格電圧を中心に,100V刻みで9タップとした。
解析パラメータとして,PV出力の力率,PVの最大出力PVmaxと最大負荷Loadmaxの比率を表2のように変化させた。ここでPVmax,Loadmaxは,それぞれ図2で示した12時におけるPVの出力と4時におけるLoad2の負荷である。一般的に,低圧配電線に連系するPVはPCSにより,力率0.95に制御されるが,無効電力の制御による電圧調整の効果をみるため,No.1では無効電力なし(力率1)の条件で解析を実施した。No.2~4はPVの導入量増加をパラメータとして,電圧変動への影響を確認した。
表2 解析パラメータ
| No. |
PV力率 |
PVmax/Loadmax |
| 1 |
1 |
0.8 |
| 2 |
0.95 |
0.8 |
| 3 |
0.95 |
1 |
| 4 |
0.95 |
1.4 |
3.3 解析結果
図3に,PVが接続されていないフィーダ1の電圧変動解析結果を示す。同図はフィーダ内の最高電圧,最低電圧の時間変化を示している。配電用変電所変圧器のタップ調整により,±5%以下の変動に収まっていることが確認できる。
図3 フィーダ1の電圧変動解析結果
上記の送り出し電圧で調整された際に,PVが接続されているフィーダ2,3の電圧変動解析結果を図4~7に示す。図4のように,PVからの無効電力出力が0(力率1)の場合,電圧上昇が大きく,SVRが設置されているフィーダ3においても+5%以上の電圧となる時刻がある。力率を0.95とすると,図5のように電圧変動が± 5%以内に収まっており,無効電力の制御によって,電圧変動を抑制できることがわかる。しかし,PVの導入量が増加すると,図6のように,SVRが設置されていないフィーダ2の最高電圧が10時~15時の範囲で+5%以上となっている。SVRが設置されているフィーダ3においても,さらにPVの導入量を増やすと,図7に示すとおり,わずかに+5%を上回る。これらの結果から,PVの導入量増加に伴い,力率一定制御やSVRによる線路電圧の調整だけでは対応が困難となり,PVの解列頻度の増加などにつながる可能性が示唆される。したがって,PVなどの再エネを有効利用するためには,様々な電圧制御方法を適切に組み合わせ,柔軟に電圧変動に対応する必要があると考えられる。
(a)フィーダ2(SVRなし)
(b)フィーダ3(SVRあり)
図4 フィーダ2・3の電圧変動解析結果
(パラメータNo.1_PV力率1,PVmax/Loadmax 0.8)
(a)フィーダ2(SVRなし)
(b)フィーダ3(SVRあり)
図5 フィーダ2・3の電圧変動解析結果
(パラメータNo.2_PV力率0.95,PVmax/Loadmax 0.8)
(a)フィーダ2(SVRなし)
(b)フィーダ3(SVRあり)
図6 フィーダ2・3の電圧変動解析結果
(パラメータNo.3_PV力率0.95,PVmax/Loadmax 1)
(a)フィーダ2(SVRなし)
(b)フィーダ3(SVRあり)
図7 フィーダ2・3の電圧変動解析結果
(パラメータNo.4_PV力率0.95,PVmax/Loadmax 1.4)
3.4 考察
本解析結果より,PVの導入量増加に伴い,PVを最大限有効利用しつつ,適正な電圧を維持することが難しくなってくることがわかる。本解析では,簡易的なモデルを用いていくつかの計算仮定を設けた他,PV出力も快晴を想定して急峻な変動がない条件で計算しているため,比較的想定しやすい結果となっている。しかし,実際の電力系統は,様々な機器で構成され,それぞれが異なる動的応答性を有するシステムである。また,PVなどの出力は天候に大きく左右されるため,気象条件による違いも本来は考慮する必要がある。このような再エネを含む電力系統システムに対して,従来から広く実施されてきた時間変化のない潮流解析で詳細な検討を行うことは容易ではない。今後の再エネの導入拡大と適正電圧の維持をはじめとした電力の安定供給を維持するためには,可能な限り,電力系統に含まれる動的な要因を考慮したうえで,本稿で紹介した各種時間変化を考慮した潮流解析技術を活用することが重要だと考えている。
4おわりに
本稿では,負荷変動や再エネの出力変動,SVRのタップ切替などの時間変化を考慮した潮流解析に焦点をあて,PowerFactoryの「Quasi-Dynamic Simulation」機能を利用した配電系統の電圧変動解析例を紹介した。本稿で紹介した解析では,現象を理解しやすくするためにいくつかの計算仮定を設けたが,PowerFactoryでは,各種機器の詳細な制御モデルや様々な運用シナリオを設定することも可能である。これら機能を有効活用することで,電力系統の課題に対する対応策を効率的に検討できる。今後は,PowerFacotryを活用した電力系統解析技術,モデル化技術の構築を進め,再エネの導入拡大に伴って複雑・高度化していく電力系統の構築,運用に貢献していきたい。
■参考文献
(1)資源エネルギー庁:「第7次エネルギー基本計画の概要」,(2025)
(2)「系統解析ソフトウェア独国DIgSILENT社製 PowerFactory」,東光高岳技報,No.9(2022)
(3)小澤知広:「配電系統における電圧変動」,電気設備学会誌,Vol.25,No.10(2005)
(4)梅山慶太,茂木規行:「6kV配電線の電力品質を維持する分散電源対応型SVR」,東光高岳技報,No.10(2023)
(5)宮本卓也:「PV向けスマートインバータの遠方監視制御に対応したDERMSの開発」,東光高岳技報,No.8(2021)
(6)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:「再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代電力ネットワーク安定化技術開発 研究開発項目②-1配電系統における電圧・潮流の最適な制御方式の開発」,(2022)
■語句説明
注1) タップ切替:変圧器の一次巻線と二次巻線の巻数比を切り替えることで電圧を調整する方法。
注2) 逆潮流:再エネなどの発電設備から電力系統側に向かう電力の流れのこと。
注3) フィーダ:変電所から分岐し,各需要家に電力を供給するための電線路のこと。
注4) 解列:発電設備を電力系統から切り離すこと。
注5) Volt-var制御:指定した電圧範囲を逸脱した際に,逸脱量に応じた無効電力を供給して電圧を調整する制御方法。
森 佑介
戦略技術研究所 技術開発センター
解析・試験技術グループ 所属