東光高岳技報 No.12 2025

持続可能な社会に向けた
エポキシモールド機器のリサイクル技術

松本 颯 Hayate Matsumoto 大竹 美佳 Mika Ohtake

東光高岳では持続可能な社会の実現に向け,エポキシモールド機器のライフサイクル全体を考慮した取り組みを行っている。原料,製造,使用,再資源化のサイクルの中でも再資源化に着目したエポキシモールド機器のリサイクルについて検討を行ってきた。これまでにエポキシ樹脂を溶解することで,金属類,充填材,樹脂分解物の3つを分離,回収できることを確認している。本稿ではエポキシ樹脂のベンチスケールの溶解設備と内蔵物の回収方法,回収した充填材を洗浄しエポキシ樹脂に再度配合した時の特性について紹介する。

1はじめに

近年,カーボンニュートラルの実現は地球環境の持続可能性を確保する上で急務とされており,更なる環境負荷の低減が企業に求められている。その一環として,廃棄物の削減や資源の有効活用が重要な課題となっている。産業廃棄物の最終処分場の残余年数は回復の傾向も見られるが20年程度の見込みであるため依然逼迫した状況となっている(1)。また,銅や銀などの金属は累計需要が埋蔵量を超過する懸念もあり,資源の枯渇への対策が必要である。このような背景から,これまでのように大量生産,大量消費して大量廃棄するといったリニアエコノミーから,ライフサイクル全体で資源の効率的,循環的な利用を最大化するサーキュラーエコノミーへの転換が重要とされている。

エポキシモールド機器は,電力インフラにおける重要な構成要素として広く用いられ,コイル(銅線)などの内蔵物を絶縁体であるエポキシ樹脂で覆っている。エポキシ樹脂は高い絶縁性と機械強度を持つことから,エポキシモールド機器は耐久性の高さに基づく長寿命で環境負荷低減に寄与してきた。一方,課題としてリサイクルしにくいことが挙げられる。またエポキシモールド機器は1960年代から実用化されており,順次更新時期を迎えることから今後も大量に廃棄処分されることが予想される。これらの背景からエポキシモールド機器のリサイクルは日々重要性を増してきている。

東光高岳では,エポキシモールド機器の持続可能な利用を目指し,エポキシ樹脂を溶解することでエポキシモールド機器の内蔵物を取り出してリサイクルすることを目的とした研究を行っている。

これまでにラボスケールの簡易設備を用いて,試験片サイズのエポキシ樹脂を供試材とした溶解条件の検討や,樹脂から回収した充填材注1)の洗浄条件の見極めなど,リサイクルするための諸条件を検証してきた(2)

回収した充填材をエポキシ樹脂に配合した場合,新品の充填材を使用した場合と同等の特性を持つこと,実器へ適用可能なことを確認した(3)

本稿では,エポキシ樹脂の溶解と充填材の回収によるリサイクルの実運用化を見据え,小型のエポキシモールド機器を溶解可能とするベンチスケール注2)の溶解設備と回収方法,またそれによって得られた回収充填材の特性について紹介する。

2エポキシ樹脂の溶解と分離

2.1 エポキシ樹脂の溶解

エポキシ樹脂は熱硬化性樹脂であり,本来は不溶不融な材料である。しかし同じ熱硬化性樹脂である繊維強化プラスチック(FRP)の溶解で実績のある常圧溶解法(4)を適用することで,エポキシ樹脂を溶解できる。これによりエポキシモールド機器から金属類・充填材・樹脂分解物の回収・分離が可能となる。エポキシ樹脂の溶解方法はいくつか挙げられるが,常圧溶解法は常圧,約200℃と比較的安全な条件での溶解が可能な点で優れている。

小型のエポキシモールド機器を溶解するベンチスケールの溶解設備(以下,本設備)を図1に示す。本設備のオイルバスに,溶解槽(溶解液とエポキシモールド機器を入れた容器)を入れ加熱して溶解する。溶解時には冷却水と窒素ガスを供給することで,溶解の効率と安全性を高めている。

以前のラボスケールの設備では1Lのフラスコを用いて樹脂の供試材を溶解していたが,本設備を導入したことにより,小型のエポキシモールド機器を溶解することが可能になった。

図1 ベンチスケールの溶解設備

2.2 樹脂材料と内蔵物の分離

エポキシモールド機器を本設備で溶解し,内蔵物を分離する際のイメージを図2に示す。

カゴに収めた供試器をカゴごと溶解槽に入れ,さらに溶解液に浸している。溶解槽を加熱すると溶けないコイルや端子等の金属がカゴに残り,樹脂だけが溶け出すことで分離されることになる。分離された樹脂分解物は溶解槽の中で液体として取り出すことができる。充填材はこの液体中に分散しているため,樹脂分解物と併せて回収した後,分離する。樹脂分解物と比べて充填材の比重が大きいため,一定時間静置させることで充填材が沈降し樹脂分解物と分離することができる。樹脂分解物の液中に一部金属くずが残留するが,ふるいで簡単に除去が可能である。

図2 溶解による内蔵物の分離

3回収した充填材のリサイクル

3.1 回収した充填材の洗浄

エポキシ樹脂を溶解し,回収した充填材は,表面に樹脂分解物などが付着している。そのため,エポキシ樹脂の充填材としてリサイクルするには洗浄(充填材から付着物を除去)する必要がある。

図3に充填材の洗浄に用いる加圧ろ過装置を示す。溶媒に分散させた充填材をこの加圧ろ過装置に流し,ろ過層にため込み洗浄する。洗浄は溶剤と精製水をろ過装置に流して行う。加圧ろ過を用いることで溶解液にベンジルアルコールのような粘度の高い液体を用いても効率よく洗浄することができる。ろ過層のフィルターとして用いるろ布については,ろ過の効率,充填材の回収率について検証し,選定している(5)

図3 充填材洗浄用加圧ろ過装置

3.2 回収充填材の分析

本設備と前節で紹介した方法で回収,洗浄した充填材(以下,回収充填材)をエポキシ樹脂に配合してリサイクルするにあたり,フーリエ変換赤外分光光度計注3)(以下,FT-IR)による分析を実施し,新品の充填材との比較を行った。試料は新品の充填材,洗浄前の回収充填材,回収充填材の3種類とし,新品の充填材との比較に加え,洗浄前後を比較し,洗浄効果の有無も確認した。

図4に上記3種類の充填材のFT-IR分析結果を示す。なお,比較しやすくするために3種類のスペクトル注4)を縦軸方向に移動して並べている。図4に示した分析結果では,洗浄前の回収充填材が示すスペクトルに樹脂分解物由来と考えられるピーク(1,500cm−1付近と1,700cm−1付近のカルボン酸注5))が確認された。回収充填材のスペクトルではこれらのピークは無くなっており,樹脂分解物が洗浄できていることが確認できた。一方で回収充填材のスペクトルは新品充填材のスペクトルと完全には一致していないことから不純物が混ざっている可能性が考えられた。

図4 各充填材のFT-IR分析結果

回収充填材の不純物を調査するために元素分析した結果,不純物は沈降防止剤であることが確認できた。沈降防止剤は樹脂にあらかじめ配合され,分散した充填材が比重差によって沈降しないよう緩和するためのものであり,配合量は充填材に比べごくわずかである。図5に新品の充填材と回収充填剤,沈降防止剤のFT-IRによる分析結果を示す。なお,図4と同様スペクトルを縦軸方向に移動して並べている。図5の赤枠部分は新品の充填材にはない回収充填材特有のピークであり,沈降防止剤が持つピークと一致していることが確認できる。ピークの高さの違いは,回収充填材に含まれる沈降防止剤が微量であるためと考えられる。

図5 2種類の充填材と沈降防止剤のFT-IR分析結果

これらの結果から,回収充填材には微量の沈降防止剤が含まれているが,表面に付着していた樹脂成分などは洗浄できていることが確認できた。そのため,充填材としてリサイクル可能であると判断した。

3.3 回収充填剤配合樹脂の特性

回収充填材を新品の樹脂に配合し,特性を取得した。取得した特性を新品の充填材と比較したものの一部を表1に示す。

回収充填材を配合した樹脂は機械特性,電気特性,熱特性,作業特性のいずれも新品の充填材を配合した樹脂と同等の特性を持つことが確認できた。

表1 回収充填材配合樹脂の特性比較
初期特性 新品との比較
機械特性 引張強さ 95%
曲げ強さ 100%
曲げ弾性率 99%
電気特性 誘電率 97%
絶縁破壊強度 94%
熱特性 ガラス転移温度 100%
作業特性 初期粘度(80℃) 101%

4おわりに

エポキシモールド機器の溶解と充填材の回収について,設備と回収・洗浄方法,さらには回収充填材を配合した樹脂の特性について紹介した。紹介した方法を用いて回収した充填材を配合したエポキシ樹脂は,新品の充填材を配合した場合と同等の特性を得られた。

今後は実運用に向け,検証規模のスケールアップと充填材以外の回収可能な材料についてのリサイクル方法の確立を検討する。併せて原材料のバイオマス資源活用による低炭素化も推進し,エポキシモールド機器のライフサイクル全体での更なる環境負荷の低減と資源循環に貢献したい。

■参考文献

(1)環境省HP:「令和7年版環境・循環型社会・生物多様性白書第2部各分野の施策等に関する報告第3章循環型社会の形成」,http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/(2025年7月11日閲覧)

(2)熊谷美佳,大塚尊裕:「エポキシモールド変成器のリサイクル」,平成22年度電気学会全国大会,5-131(2010)

(3)熊谷美佳,大塚尊裕:「エポキシモールド変成器の溶解回収物の再利用」,平成24年度電気学会全国大会,5-128(2012)

(4)柴田勝司:「FRPのリサイクル技術」,ネットワークポリマー,Vol.28,No.4,pp.247-256(2007)

(5)大竹美佳,山下太郎:「エポキシモールド機器のライフサイクル全体にわたる環境配慮技術」,東光高岳技報,No.7,pp.19-20(2020)

■語句説明

注1) 充填材:被添加物質の特定の性能を向上させるもの。エポキシ樹脂においては無機物の粉体が多く,機械強度を高めることや熱膨張率を下げることを目的にシリカやアルミナが添加される。

注2) ベンチスケール:原理の検証や初期評価に用いられるラボスケールから規模を拡大した段階で,プロセスの評価などに用いられる。

注3) フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR):試料に照射した赤外光の透過または反射した光量と周波数から試料の分子構造の定性分析を行う装置。高精度かつ迅速に測定が可能。

注4) スペクトル:光や信号などの複雑な情報を成分ごとに並べたもの。FT-IRにおけるスペクトルは物質固有であるため物質の同定に用いられる。

注5) カルボン酸(-COOH):炭素鎖の末端に酸素原子の二重結合とヒドロキシ基(OH基)を持つ親水性の官能基であり,樹脂成分の残留物有無の判断ができる。

松本 颯
戦略技術研究所 技術開発センター
材料技術グループ 所属

大竹 美佳
戦略技術研究所 技術開発センター
材料技術グループ 所属

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