東光高岳技報 No.12 2025

植物由来の絶縁油を使用した
電力会社向け油入全装輸送変圧器

土屋 龍平 Ryohei Tsuchiya 大山 修司 Shuji Oyama

1はじめに

近年,持続可能な社会の実現に向け,環境負荷に配慮した変電設備のニーズが高まっている。それに対応した製品の一つとして,従来の石油由来の鉱物系絶縁油(以下,鉱油)に代わり,植物由来の絶縁油を使用した変圧器があり,当社はこれまで一般産業や公営企業,鉄道会社向けにパームヤシ脂肪酸エステル油(以下,PFAE)を適用した変圧器を多数納入している。

今回,PFAEを適用した電力会社向け油入全装輸送変圧器(以下,本器)を開発し,その初号器を東京電力パワーグリッド株式会社に納入したので紹介する。

2仕様

本器の基本仕様を表1,外観を図1に示す。

表1 基本仕様
現行器 本器
絶縁冷却媒体 鉱油 PFAE
一次引出方法 気中形,ケーブルヘッド形
容量・電圧 20MVA 64.5/6.9kV
タップ切換方式 負荷時タップ切換
結線 Y-Y-(Δ)
%インピーダンス 15%
騒音 50dB(A)以下
全損失 141kW 129.5kW
寸法 長さ6,230mm
幅 3,000mm
高さ3,500mm
長さ6,200mm
幅 3,000mm
高さ3,700mm
総質量 37.0t 37.6t
輸送形態 油入全装輸送
図1 変圧器外観

3特長

本器の主な特長は次のとおりである。

3.1 脱炭素化・低環境負荷

・PFAEの原材料であるパームヤシは,成長過程において大気からCO2を吸収する効果を見込むことができるため,カーボンニュートラルへの貢献ができる。

・PFAEは高い生分解性注1)を有しているため,万が一自然災害などで自然環境中へ油流出が発生した場合においても,生態系への影響を最小限に抑えられる。

・現行器よりも低損失な設計とすることで消費電力を軽減し,電気的性能面においても環境負荷低減が期待できる。

3.2 その他特長

・低損失設計により重量が増えるが,PFAEは他の植物油と比較して動粘度が低く放熱性が高いため,放熱器の数を削減することで重量を減らせる。それにより,現行器と同等の総重量を維持できるため,完成状態で輸送する油入全装輸送を実現している。油入全装輸送により,現地での注油作業の省略および工事工程の短縮が可能である。

・電力会社特有のニーズである過負荷運転性能については,絶縁油の熱流体解析を行い,油流を考慮した内部構造を設計することで,求められる性能を確保している。

・PFAEは高い吸湿性能を有していることから,巻線絶縁紙の劣化を抑制し,変圧器の寿命延伸が期待できる。

4おわりに

今後もお客様のニーズを把握しながら,持続可能な社会の実現に貢献する変圧器の開発を推進していきたい。

■語句説明

注1) 生分解性:微生物により,二酸化炭素や水,その他の無機物へ分解される性質。なお,PFAEは酸素存在下においてでのみ分解される。

土屋 龍平
電力プラント事業本部
第一設計部 大型変圧器設計グループ 所属

大山 修司
電力プラント事業本部
第一設計部 大型変圧器設計グループ 所属

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