エネルギー消費効率を向上した
油入形2026トップランナー変圧器
松下 洋一 Yoichi Matsushita
東光高岳技報 No.12 2025
松下 洋一 Yoichi Matsushita
省エネルギーや地球温暖化防止等の背景から,2003年4月に「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」が改正施行された。その中には,省エネルギーの基準を定めるトップランナー制度注1)についての記載もあり,高圧受配電用変圧器(油入変圧器)が特定機器注2)に指定された。2023年にトップランナー制度の第三次判断基準(経済産業省告示127号)が告示され,それに適合した「2026トップランナー変圧器」の出荷が2026年4月から義務化される。2026トップランナー変圧器は,識別のためデザインのロゴマークを変圧器本体やカタログに明記することになっている(図1)。
油入変圧器の製造・販売をしている東光高岳でも,2026トップランナー変圧器に適合した製品を開発しているため紹介する。
トップランナー変圧器は,表1のように判断基準が更新され,それに伴い呼称も変更されてきた。その最新が2026トップランナー変圧器となる。適用範囲と除外機種を表2に示す。
| 開始年度 | 呼称 | 判断基準 |
|---|---|---|
| 2006年度 | トップランナー変圧器 | 第一次 |
| 2014年度 | トップランナー変圧器2014 | 第二次 |
| 2026年度 | 2026トップランナー変圧器 | 第三次 |
| 適用範囲 |
機種:油入変圧器,モールド変圧器 容量:単相10kVA~500kVA,三相20kVA~2,000kVA 一次電圧:6kV級,3kV級 二次電圧:100V~600V |
|---|---|
| 除外機種 |
ガス絶縁変圧器 H種乾式変圧器 スコット結線変圧器 モールド灯動変圧器 水冷または風冷変圧器 3巻線以上の多巻線変圧器 電力会社向けの柱上変圧器など |
第三次判断基準が告示されたことにより,JIS C 4304が改訂され,また,一般社団法人日本電機工業会にて新たにJEM 1520が制定された。2026トップランナー変圧器が準拠するJIS規格およびJEM規格を表3に示す。
| 規格 | 名称 |
|---|---|
| JIS C 4304:2024 | 配電用6kV油入変圧器 |
| JEM 1520:2024 | 特定エネルギー消費機器準標仕様 高圧油入変圧器 |
トップランナー制度の基準にはエネルギー消費効率が用いられる。エネルギー消費効率は無負荷損注3)と基準負荷率時注4)の負荷損注5)を合わせたもので次式により算出する。
エネルギー消費効率 = 無負荷損 + (m/100)2 × 負荷損
m:基準負荷率 500kVA以下40%
500kVA超過50%
表1の各機器,およびトップランナー制度適用以前の変圧器のエネルギー消費効率の比較を図2に示す。
エネルギー消費効率は,2026トップランナー変圧器では,トップランナー制度適用以前の変圧器と比較して42%程度,トップランナー変圧器2014との比較では13%程度改善される。エネルギー消費効率の改善により電気料金の削減,CO2排出量の削減が図れる(1)。
今回,東光高岳が開発している油入形の2026トップランナー変圧器の外観を図3に示す。
エネルギー消費効率の向上には,鉄心に使用する電磁鋼板の特性,鉄心断面積,鉄心質量,巻線に使用する導体特性,巻線断面積,巻線の大きさなどの各パラメータから適切な設計を行った。設計の特長は鉄心の低磁束密度化となる。
無負荷損は,鉄心の断面積を大きくし低磁束密度化すると低減することができる。しかし,過度の低磁束密度化は巻線線長の増加による負荷損の増加に繋がるため,最適な磁束密度にて設計を行った。
また,鉄心の低磁束密度化により無負荷損の低減だけでなく低騒音化も期待できる。
2026トップランナー変圧器の概要およびそれに適合した東光高岳製油入変圧器について紹介した。2026年4月から販売開始する2026トップランナー変圧器はエネルギー消費量やCO2排出量の低減に貢献する。
今後も2050カーボンニュートラル実現に向け,変圧器のさらなるエネルギー消費効率向上を目指していく。
(1)日本電機工業会:「地球環境保護・温暖化防止のために 2026トップランナー変圧器」,pp.5-6(2025)
注1) トップランナー制度:省エネルギー基準を定める方式の一つで,出荷される製品の省エネルギー基準を現在商品化されている最高性能の製品以上に定めること。
注2) 特定機器:二酸化炭素排出量を抑えるため,エネルギーの使用の合理化を図ることが特に必要な機器。
注3) 無負荷損:負荷がない場合でも発生する損失。変圧器の巻線に電圧が印加され,鉄心に発生する磁束により発生する。
注4) 基準負荷率:定格容量に対する利用率。基準負荷率の値は,使用実態に即し,実際に使用される負荷が変動した際にも十分な省エネ効果を発揮することに配慮し,省エネ法における変圧器判断基準に定められた値。
注5) 負荷損:負荷により発生する損失。負荷電流と巻線の抵抗により発生する。
松下 洋一
電力機器事業本部
小型変圧器製造部 設計グループ 所属