受変電設備の安定稼働に貢献する
ディジタル形保護計測装置PACGEARの
モデルチェンジ
市川 隆之 Takayuki Ichikawa 長谷川 誠 Makoto Hasegawa 山田 康久 Yasuhisa Yamada
東光高岳技報 No.12 2025
市川 隆之 Takayuki Ichikawa 長谷川 誠 Makoto Hasegawa 山田 康久 Yasuhisa Yamada
受変電設備用の保護,制御,計測機能を一括収納したディジタル形保護計測装置である「PACGEAR(Protection and Control - GEAR)」は,1988年に当社が適用開始してから約40年が経過した現在も,受変電設備用ディジタル・マルチリレー注1)として長くご使用いただいている。
適用当初より,市場ニーズや対象設備の形態に合わせて機種を展開し,高機能化や後継機種適用等を進めてきた。近年では,労働人口の減少に伴い,受変電設備での保守・メンテナンス作業の継続が困難になりつつある。
そこで課題解決のために,機能向上を実現したPACGEARシリーズの最新モデルPACe2を開発したので紹介する。
PACe2は,受変電設備の保守・メンテナンスの効率化のため,様々な機能を用意している。PACe2における開発コンセプトを図1に示す。3~5章で各コンセプトを説明する。ここでは主な特徴を紹介する。
・自動リレー試験機能による点検簡素化・点検周期延伸に寄与
・各種データの記録による異常データの解析や設備故障の未然防止に寄与
・市販の汎用ケーブルを用いてPCから設備状態の確認が容易
・汎用的な伝送方式へ対応し既存設備との接続性向上
3.1 機種統廃合
PACGEARシリーズでは,対象設備やお客様にあわせた様々な機種を展開してきた。そうすることで多様なニーズに応えてきた一方,使用部品の生産中止に伴う生産維持対応や保守・メンテナンスに課題が生じていた。
今回,使用部品を1点ずつ見直し,筐体サイズの異なるPACGEARシリーズの最小サイズに合わせるとともに,使用プロセッサの大幅な性能向上を図ることで,シリーズの統廃合を実現させた(図2)。
PACe2の外観と他機種サイズ比較を図3,図4に示す。
筐体サイズをコンパクト化したことにより,装置の更新時にはアタッチメントを取り付けることで,装置が取り付けられている扉の加工をせずにレトロフィットを行うことを可能とした。
3.2 データ利活用
お客様設備の診断や予防保全にもご活用いただくため,PAC8から搭載しているデータセーブ機能を更に向上させた。これまでのアナログ情報(リレー動作のための基本波抽出後のRy入力情報),リレー動作情報,トリップ出力/Do出力情報,Di入力情報に加え,オシロ波形記録として,4,800Hz(50Hz時) /5,760Hz(60Hz時)周期で,アナログ/ディジタル・フィルタを介さずに,直接サンプリングした系統情報を記録できるようにした。
これにより,非接地系統の地絡事故時に生じる間欠地絡波形(台形波V0/針状波I0波形)を解析ツールにより直接確認できるようになった(図5)。
非接地系統においては,地絡事故の様相が多様であることが分かっている(図6)。本オシロデータは,これらの事故様相を基に,事故内容を迅速に判別するための有効な手段となる。トリップに至る前に自然復旧する事象であっても,PACe2では即時のリレー検出で波形記録するため,本ツール活用により,事故再発の未然防止に活用できる。
PACGEARに蓄積されたデータをPCで確認する際,従来は専用通信ケーブルで接続し,データ取得していた。
PACe2では本体にUSB Type-Cを搭載することで,PC側に専用ポートが不要となり,市販ケーブルがそのまま使用できるようになった。特にPCとのインターフェースをUSBにすることで,データセーブ記録の取得や確認のための待ち時間が少なくなり,データ量が大幅に増加しても,ストレス無く作業が行えるようになった。
3.3 拡張性
PACe2では,ハードウェアを共通化し,ソフトウェア設定で機能の有効・無効を設定できるようにしたことで,お客様の要望に合わせた機能追加が容易になった。
また将来的に内蔵した拡張基板により様々なセンシングや通信方式に対応できるようになるため,追加の設備が必要なくなり,設備更新が短期かつ容易となる。
4.1 消費電力削減
使用部品の見直しと併せて,消費電力(使用電圧)の最適化も行った。ただ低消費を目指すだけではなく,最新のJEC規格(JEC-2500-2010)を満たすよう,最適な使用電圧で構成している。これにより消費電力は,PAC8に対して約70%,PACeに対して約20%低減できた(表1)。
| PACシリーズ | 定格 | 平常時(W) | 最大時(W) | 質量(kg) |
|---|---|---|---|---|
| PAC8 | 20W | 16 | 19 | 5.4 |
| PACe | 10W | 7 | 8 | 2.3 |
| PACe2 | 10W | 5 | 6 | 1.8 |
4.2 部品点数の削減
PACe2では,実装部品の見直しや再設計による部品の小型化や部品点数の削減を行った。その結果,高性能タイプであるPAC7やPAC8と同等の性能を有しながら,汎用タイプのPACeと同じ基板枚数にすることができた。
これら使用部品の見直しにより,使用部品・筐体含めた質量は,消費電力同様PAC8に対して約70%,PACeに対して約20%低減した(表1)。
5.1 機能追加
今回,PACe2では従来のPACGEARシリーズでは搭載していなかった表2の保護機能を新たにソフトウェアで実現した。新規にハードウェアを追加する必要がなく,設備全体の高機能化・低廉化に貢献できる。
| 追加機能 | 内容 |
|---|---|
| 間欠地絡応動 | 間欠地絡時でのリレー検出・応動 |
| 地絡相表示 | 非接地系統での地絡相表示 |
| 高調波モニタ | 高調波監視に影響する系統高調波モニタ |
5.2 メンテナンスの効率化
現地試験の効率化や点検周期の延伸に貢献するため,PACe2では自動リレー試験機能を搭載した。この機能は,内部アナログ回路に既知の基本波を印加させることで,リレー動作レベル,動作時間(内部トリップ出力までの時間)を監視・記録できる機能である。試験結果は,ツールを用いて記録・出力できる(図9)。
5.3 伝送速度・容量の向上
伝送速度・容量の大幅な向上を実現させるため,PACe2では伝送機能を改善した。PACe2では従来の当社独自仕様だけでなくModbusも使用可能となり,各種PLCや様々なデバイスとの接続をしやすくした。伝送速度・容量の向上により,さらに多くの設備情報を監視・制御できるようになり,設備監視の効率化に貢献できる。
| 伝送方式 | ~PAC8 | PACe | PACe2 |
|---|---|---|---|
| OPCN-1注2) | 〇 | - | - |
| 当社専用通信 | 〇 | 〇 | 〇 |
| CC-Link注3) | 〇 | 〇 | 〇 |
| Modbus注4) | - | - | 〇 |
6.1 準拠規格
PACe2では,最新のJEC規格に準拠した設計となっている。表4に準拠したJEC規格を記す。
| No. | JEC規格番号 | 規格名称 |
|---|---|---|
| 1 | JEC-2500-2010 | 電力用保護継電器 |
| 2 | JEC-2501-2010 | 保護継電器の電磁両立性試験 |
| 3 | JEC-2502-2010 | ディジタル演算形保護継電器のA/D変換部 |
| 4 | JEC-2510-1989 | 過電流継電器 |
| 5 | JEC-2511-1995 | 電圧継電器 |
| 6 | JEC-2512-2002 | 地絡方向継電器 (※) |
| 7 | JEC-2518:2015 | ディジタル形過電流リレー |
| 8 | JEC-2520:2018 | ディジタル形過電圧リレー |
JEC-2512-2002地絡方向継電器では,地絡方向リレー要素の動作整定値がZCT(零相変流器)の二次側表記で規定されている。従来のPACGEARシリーズではZCT一次側表記の整定値としており,これを二次表記に変更した場合,現地整定値と同じ値を選ぶことが困難となり,レトロフィットの思想にそぐわなくなる。
そのため本整定値については,JEC規格には準拠せず,従来のPACGEARシリーズで採用していたZCT一次表記での整定とした。
6.2 試験結果
ZCT一次整定としたJEC-2512-2002の一部試験以外,表4のJEC規格で規定されている試験は,全て良好な試験結果が得られた。
(1)振動・衝撃試験
図10に振動・衝撃試験の一例を示す。
(2)JEC-2501-2010規定の試験結果
JEC-2501-2010保護継電器の電磁両立性試験に規定されている試験を実施し,全て試験結果は良好であった(表5)。
| No. | 試験項目 | 試験結果 | 備考図 |
|---|---|---|---|
| 1 | 静電放電イミュニティ試験 | 良 | |
| 2 | 商用周波数イミュニティ試験 | 良 | 図11 |
| 3 | 減衰振動波イミュニティ試験 | 良 | |
| 4 | 電気的ファストトランジェント/バースト (EFT/B)イミュニティ試験 |
良 | |
| 5 | 方形波インパルスイミュニティ試験 | 良 | |
| 6 | サージイミュニティ試験 | 良 | |
| 7 | 商用周波数電磁界イミュニティ試験 | 良 | |
| 8 | 無線周波数電磁界伝導妨害イミュニティ試験 | 良 | |
| 9 | 放射無線周波電磁界イミュニティ試験 | 良 | 図12 |
6.3 国際標準規格に基づいた検証試験
本製品においては,JEC規格への準拠のみならず性能検証試験の一環として,国際標準規格に基づいたイミュニティ試験の検証も実施し,装置としての妥当性を確認した。
表6は,JEC規格を超えるイミュニティ性能を求められる国際標準規格における検証試験の内容とその結果を示す。
| 雷インパルス耐電圧試験 | ||
|---|---|---|
| 試験仕様 | 国際規格 | 結果 |
|
1.2/50μs 5.0kV 電気回路一括=アース 計器用変成器回路間 計器用変成器回路=制御回路間 JEC-2501-2010:4.5kV |
IEC60255-5 IEC61850-3 (section6.6.3) |
良 |
|
1.2/50μs 5.0kV 計器用変成器回路端子間 制御電源回路端子間 JEC-2501-2010:3.0kV |
良 | |
| 電気的ファーストトランジェント/バースト・イミュニティ試験 | ||
| 試験仕様 | 国際規格 | 結果 |
|
印加電圧:4.0kV(CLASS-A) 繰返周波数:5.0kHz,100kHz 電源回路=アース間 JEC-2501-2010:2.0kV |
IEC60255-22-4 | 良 |
|
印加電圧:2.0kV(CLASS-B) 繰返周波数:5.0kHz,100kHz CT/VT回路=アース間 Di/Do回路=アース間 JEC-2501-2010:1.0kV |
良 | |
| 電力周波数磁界イミュニティ試験 | ||
| 試験仕様 | 国際規格 | 結果 |
|
磁界強度:100A/m 連続 JEC-2501-2010:30A/m 連続 1000A/m 1~3sec JEC-2501-2010:300A/m 1~3sec |
IEC60255-26 IEC61000-4-8 |
良 |
| 放射性エミッション | ||
| 試験仕様 | 国際規格 | 結果 |
|
・CE仕様(CSPR11) ・FCC仕様(FCC-part15-A) JEC-2501-2010:規定なし |
IEC60255-26 | 良 |
PACe2は,今までのPACGEARシリーズの機能を継承しつつ,既設装置のレトロフィットも行えるものとなっている。特高向けや一部お客様向け用途など,ソフトウェアの開発や評価については引き続き対応していく。今後は,更なる価値向上を目指し,以下の機能を搭載する予定である。
・ソフトPLC機能の搭載:市販ツールを活用し,お客様がシーケンスを作成・組込むことができるようにする。
・伝送機能の高機能化:国際標準規格(IEC 61850)に基づいた伝送方式を新たに拡張基板に搭載することで,海外製品など様々な機器との接続を可能にし,お客様のニーズに合わせた機器との接続性の向上を目指す。
注1) マルチリレー:保護リレー,メータ,操作スイッチ,監視表示器,伝送機能等,複数の機能を1つの装置に集約した複合型の保護リレーのこと。
注2) OPCN-1:Open PLC Network 1の略。FAシステムにおけるPLCを中心としたステーション管理を目的としたネットワーク規格。JEMAでは,2011年10月に認証手続きが終了している。
注3) CC-Link:Control & Communication Linkの略。三菱電機が開発した産業用オープンフィールドネットワーク。PLCや入出力機器などの制御機器とシリアル通信で結び,制御と情報を同時に扱えるようにするもの。CC-Linkのロゴは,三菱電機の登録商標(第4134745号)。
注4) Modbus:Modicon社が開発したPLCなどの制御装置間でのデータ送受信方式。製造業の自動化に欠かせない通信規格となっている。
市川 隆之
電力プラント事業本部
第二設計部 制御装置設計グループ 所属
長谷川 誠
電力プラント事業本部
第二設計部 制御装置設計グループ 所属
山田 康久
電力プラント事業本部
第二品質保証部 制御装置品質保証グループ 所属