東光高岳技報 No.12 2025

再エネの最適な利用計画の立案と
最大限の活用を支援する需給一体型EMSの開発

1はじめに

太陽光発電(以下,PV)や風力発電など再生可能エネルギー(以下,再エネ)の普及に伴い,電力会社は電気の需要と供給のバランスを保つため,系統への電力出力抑制をおこなっている。

そのため,各需要家にて再エネを無駄なく効果的に使用してもらうことが求められる。その手段として,各需要家にEMS(エネルギーマネジメントシステム)を導入し,さらにクラウドを利用し各需要家を連携,管理運用することにより,再エネを最大限活用する技術が必要となる。

大成建設株式会社は,「建物の需要電力量と再エネによる発電量の予測を一元的におこない,再エネの最適利用計画を自動で立案し,最大限有効に活用することができるエネルギー需給一体型管理システム「T-Green BEMS注1)RE Optimizer」を開発」(1)し,大成ユーレック株式会社川越工場(以下,大成ユーレック)に導入した。

T-Green BEMS RE Optimizerの開発にあたり,東光高岳は,大成建設株式会社と協働し,その運転,制御,監視機能を実現する需給一体型EMSの開発をおこない,納入したので紹介する。

2需給一体型EMSの設備概要

需給一体型EMSを導入した大成ユーレックのエネルギー運用設備は,PV設備,蓄電池設備,P2G設備注2),および水素利活用設備注3)があり,連携システムとしてクラウドBEMS(後述)がある(図1)。

図1 大成ユーレック川越工場エネルギー設備概要図

3需給一体型EMSの主な機能

需給一体型EMSは,発電した再エネを無駄なく効果的に使用するシステムであり,電力制御機能,計画立案機能,操作・表示機能,クラウドBEMS連携機能の4つの機能を有する。

3.1 電力制御機能

PV設備により発電した再エネ電力を工場需要に充当するが,再エネ余剰電力が発生した場合は,再エネ余剰電力にて蓄電池を充電する。蓄電池設備の充放電電力を活用して,以下の2つの機能を実現する。

 ① 高速0潮制御機能:PLC注4)を用いてkW単位にて電力負荷変動に対し高速負荷追従制御を実現する。

 ② 30分同時同量制御機能:kWh単位にて30分電力量の同時同量制御を実現する。

3.2 計画立案機能

(1)再エネ余剰電力最適配分計画立案機能

クラウドBEMSにてPV設備で得られる再エネ発電量と各需要電力量を前日に予測し,再エネ発電電力と工場需要電力から再エネ余剰電力を算出する(図2の上段部分参照)。

その再エネ余剰電力の供給先として,蓄電池への充電,P2G設備の運転によるグリーン水素の製造と水素利活用設備による蒸気製造,大成建設株式会社横浜支店ビルへの電力自己託送(後述)を組み合わせた,ロジックによる最適配分・利用計画の立案をおこなう(図2の下段部分参照)。

図2 再エネ余剰電力最適配分

(2)自己託送機能

自己託送とは,自社の発電設備で作った電力を,遠隔地にある自社,もしくはグループ会社の他の場所にある工場や店舗などの関連施設へ送電する仕組みを指す。

需給一体型EMSでは,各種予測値を基に,翌々日,翌日の自己託送計画を自動で立案し,OCCTO注5)へ提出する機能を有する(図3)。

図3 自己託送

3.3 操作,表示機能

(1)SCADA機能

PV設備,蓄電池設備,P2G設備,水素利活用設備,およびクラウドBEMSと通信し,状態の監視・制御をおこなう。また,計画値,計測データなどの表示や保存もおこなう。警報発報や,運転状態変化などについて,メール通知する。

(2)蓄電池充電電力属性内訳機能

充電した再エネ電力のみを自己託送に使用するため,蓄電池の充電電力量について,再エネ電力による充電,買電電力による充電の属性内訳を算出し,表示する。

3.4 クラウドBEMS 連携機能

クラウドBEMSは,需給一体型EMS が制御する運転パターン,P2G設備が有する運転モード,水素利活用設備が有する運転モードの各々を考慮した運転計画の自動立案をおこなう。需要電力量や再エネ発電量などの各予測を基に,AIを駆使した再エネ余剰電力の最適な配分・利用計画の立案が可能である。なお,需給一体型EMSとクラウドBEMS とは,通信機能にて連携する。

4おわりに

今後も,大成建設株式会社と協働して,カーボンニュートラルの実現に向けて取り組んでいく。

大成ユーレックに設置したT-Green BEMS RE Optimizerを活用し,さらなる再エネ利用の最大化のための実証を進め,様々なお客様ニーズに合わせた最適なエネルギーマネジメントの実現に取り組んでいく。

■引用文献

(1)大成建設株式会社NEWS RELEASE 2024年7月3日 再生可能エネルギー需給一体型管理システム「T-Green BEMS® RE Optimizer」を開発-自社グループ施設にて再生可能エネルギー利用の最適化と蓄電池・水素利活用設備技術の実証を開始- https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/assets_cms/pdf/20240703.pdf

■語句説明

注1) T-Green BEMS:建物の使用エネルギーを24時間モニタリングすることで,エネルギー管理にかかわる業務をトータルでサポートするシステム。T-Green BEMSのロゴは大成建設株式会社の登録商標第5594759号である。

注2) P2G設備:P2GとはPower to Gasの略。再エネなどの電力を活用して水素を製造する設備。山梨県,東レ株式会社,東京電力エナジーパートナー株式会社,大成建設株式会社は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の採択を受け,本システムの開発を推進している。

注3) 水素利活用設備:P2G設備などで製造した水素を貯蔵・利用する設備。

注4) PLC:Programmable Logic Controllerの略。シーケンス処理を得意とする制御装置。

注5) OCCTO:電力広域的運営推進機関。電気事業法に基づき,全国規模で平常時・緊急時の需給調整機能を強化することを目的に2015年に発足した認可法人。

GX ソリューション事業本部

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