東光高岳技報 No.12 2025
ラオスの自律的な広域連系システムの実現に貢献
1背景
ラオス人民民主共和国(以下,ラオス)は,5か国と国境を接する東南アジア唯一の内陸国である。国土面積は,約23万7,000平方キロメートルで,日本の本州ほどの広さである。人口は約755万人であり,首都ビエンチャンの人口が約15%を占める。
ラオスは,水力発電による電力を周辺国(タイ,ベトナム,カンボジア,シンガポール)へ輸出し,外貨獲得の柱としている。しかし,隣国への電力輸出が国内系統とは独立した輸出専用電源線を介して行われており,余剰電力を最適かつ柔軟に国内・隣国間で融通できないことが課題となっている。
そこで,東京電力ホールディングス株式会社,東京電力パワーグリッド株式会社,東電設計株式会社,日本工営エナジーソリューションズ株式会社の共同企業体が,独立行政法人国際協力機構(JICA)の委託を受けて,「グリッドコード注1)整備および運用体制強化による電力品質向上プロジェクト」(以下,本技術協力)を実施中である(本稿執筆時点)。
本技術協力は,ラオス国内の電力系統と隣国の電力系統を連系させる広域連系システムを確立することにより,ラオス国内の最適な系統運用が可能となるような技術基準を確立して技術者を育成することを目的としている。
タカオカエンジニアリング株式会社(以下,TEC)は,本技術協力で導入される送電系統停電事故解析システムの供給・据付と技術指導を東電設計株式会社より受注した。
2TEC担当案件の概要
(1)施主 :ラオス電力公社(EDL)
(2)元請 :東電設計株式会社含む4社の共同企業体
※TECへの発注は東電設計株式会社
(3)案件名 :ラオス・グリッドコード整備および運用体制強化による電力品質向上プロジェクト向け機材
(4)資金 :独立行政法人国際協力機構(JICA)
(5)工期 :2023年3月 (契約) ~2024年8月(完工)
(6)担当範囲:オシログラフデータ記録装置および周辺資機材の設計・調達・輸送・据付・現地試験・EDLスタッフへの技術指導
以下に,本案件の詳細を示す。
(a)システム構成と納入機器(図1,2)
・オシログラフデータ記録装置(以下,FR)
フォルトレコーダを内蔵した設備。
系統事故の発生中および発生前後一定時間の電圧・電流の波形,当該系統の遮断器の開閉状態・保護リレー動作などを記録。また,遠隔のEDL本社にて記録されたデータの閲覧が可能。
・付帯設備(GPS時刻同期システム)
各FRに設置。事故データの時刻同期に使用。
(b)据付場所,納入機器台数およびFR接続回線数
・ナサイトン変電所:FR×1(接続送電線:8回線)
・コクサート変電所:FR×1(接続送電線:7回線)
・ドンポシ変電所:FR×1(接続送電線:4回線)
(c) 納入機器の現地試験
・各変電所のFRについて,電流・電圧の入力値と表示値の比較,各遮断器や保護リレーの状態信号の受信,事故データの取得と保存について確認した。
・EDLのイントラネット回線を介して遠隔地のPCから変電所のFRのデータをモニターできることを確認した。
(d)現地での技術支援
全3変電所において,使用者であるEDLの担当技術者向けに,FRの機能および事故波形解析方法の説明と操作実習を行った(図4)。
3本案件における挑戦
(1)TECは,約50か国において150サイトを超える事業経験があるが,ラオス向けでは本案件が初めての取り組みである。また,ラオスではFRの導入実績がなかったので,電力事情,送電系統や設備構成を理解することからスタートした。
(2)EDLの保護リレー運用に関する情報が乏しく,FRに接続するリレー要素を,EDLエンジニアと協議を重ねながら決定した。
(3)FRに接続する既設設備の図面入手が困難であったため,EDLエンジニアと協議を重ねながら全19回線のFRへの接続回路を確定させた。特に苦労したのは,以下3点である。
・多くの設備でリレー取替等の改造がされていたため,保護リレーの取扱説明書と既設回路の目視調査により接続回路を確定させた。
・別のDC電源が接続された設備が混在し,それに合わせたFRの電源設計が必要になった。
・既設設備の製造者が混在しており,同じ設計の設備はほぼなかった。
(4) FRの設置後に実施される系統運用の現状分析と改善を含めた全体スケジュールに影響を与えないよう,工期厳守に努めた。
以上のような挑戦を乗り越えて,2024年8月に,TECの受託業務を完工した。本格稼働して間もなくFRによる事故解析により,リレー設定で要改善事項がいくつか抽出できたとの連絡を受け,FR設置の効果を確認できた。
同月,EDL主催による完工式典が開催され,ラオスのエネルギー鉱業省副大臣やEDL副総裁など名だたる方々,日本側関係者が列席された。ラオス政府からの祝辞において,本案件と本技術協力に対する高評価と謝辞の言葉をいただくことができたことは,TECにとっての悦びとなっている。
(2024年8月6日,EDL本社にて開催。写真はEDL提供)
4今後の展開
TECはこれまで,電力プラント(送変電・配電・発電など)の建設事業を通じて,新興国の経済発展と市民生活の向上に貢献してきた。今後は,課題特定と解決策提案を指向する独立行政法人国際協力機構(JICA)の技術協力プロジェクトにも協力し,新興国の電力事情の改善に包括的に取り組んでいきたい。
■語句説明
注1) グリッドコード:電力系統に接続される電源等が従うべきルール。