東光高岳技報 No.12 2025

系統安定化に資する電圧源動作スマートPCS開発およびVSGとの並列運転試験

小野 晋也 Shinya Ono 吉井 誠 Makoto Yoshii

近年脱炭素を目的として再生可能エネルギーや蓄電池など,IBR注1)(Inverter-Based Resource/インバータベース電源)が普及している。将来IBRが主力電源となる系統においては,系統電圧・周波数を安定化できるGFM(Grid ForMing inverter/系統形成インバータ)が注目されている。東光高岳ではGFMを実現する方式の一つである電圧源注2)動作スマートPCS(1)を開発した。またIBRが主力電源となる系統の諸課題を見据え,同じくGFMを実現する方式の一つである川崎重工業株式会社製VSG(Virtual Synchronous Generator/仮想同期発電機)(2),(3)との並列運転試験(4)を実施した。

1はじめに

第7次エネルギー基本計画において,S+3E注3)を原則としたうえで再生可能エネルギーの主力電源化が求められている。再生可能エネルギー電源は脱炭素電源である一方,発電量が天候などに左右され発電と需要の傾向が必ずしも一致しない。よって蓄電システムの導入が有効となる。再生可能エネルギー電源や蓄電システムの多くは系統連系インバータを介するIBR注1)(Inverter-Based Resource/インバータベース電源)である。IBRの普及が進むと系統内の同期発電機(回転体を持つ発電源)が相対的に減少し,同期発電機の物理特性(慣性注4)など)が担ってきた系統調整機能も低下する(5)。よってIBRが主力電源となる系統においては,系統連系インバータは自律的な系統電圧や周波数の安定化機能が求められる。従来の系統連系インバータが系統に追従する(following)ことからGFL(Grid FoLlowing inverter)と呼ばれるのに対し,系統電圧・周波数を形成する(forming)系統連系インバータはGFM(Grid ForMing inverter)と呼ばれる(6)図1に本稿における語句の定義を示す。

一般的に,系統と電源の連系においてSSO注5)(Sub-Synchronous Oscillation/低周波電力振動)が課題となる。特に系統連系インバータの並列運転においては,相互干渉(制御系(PLL注6)など)や共振現象)により顕著なSSOが生じる場合がある。そのため,SSOの様々な制振手法が提案されている(7)。更にIBRが主力電源化した系統には複数メーカの様々な特性を持つ系統連系インバータの導入が予想される。よってGFMにおいては単体での安定運転を前提としたうえで,複数メーカの並列運転状況下においても特別な協調制御を必要としない安定運転が求められる(8)。東光高岳は脱炭素と系統安定の両立に貢献すべくスマートPCSを研究(9)しており,今回GFMを実現する方式の一つである電圧源注2)動作スマートPCS(1)を開発した。小山事業所配電ネットワーク実証試験場(以下,FDN試験場)(10)において実機検証している。

図1 本稿におけるIBRと系統連系インバータの定義

以降,2章では電圧源動作スマートPCSの開発について報告する。3章では大学法人東洋大学,川崎重工業株式会社との共同試験(4)の概要を報告する。小山事業所内で同じくGFMを実現する方式の一つである川崎重工業株式会社製VSG(Virtual Synchronous Generator/仮想同期発電機)(2),(3)と電圧源動作スマートPCSを並列運転させ,IBRが主力電源化した系統における諸課題を検証した。2025年現在での複数メーカによるGFMの並列運転試験実績は希少である。

2電圧源動作スマートPCSの開発

2.1 電圧源動作スマートPCS概要

(1)スマートPCSとは

スマートPCSはスマートインバータ機能を組み込んだ系統連系インバータの一種であり,自律調整機能(電圧,周波数,力率,有効/無効電力出力制御など)と電力会社などとの双方向通信機能を具備する。これによりきめ細かい系統安定運用に貢献するのが特徴である。

(2)電圧源動作スマートPCS開発方針

文献(9)の従来スマートPCS(GFL)をベースにハード面での改造を行わず,制御系改造および設定変更のみで電圧源動作スマートPCS(GFM)を開発した。表1に実装した主な制御機能を示す。各機能の詳細は文献(9)を参照されたい。また,今回はIBRとしてナトリウム硫黄電池(以下,NaS電池)を使用した。

表1 電圧源動作スマートPCSの主要機能
機能 概要
有効/無効電力充放電制御 定常時の充放電制御
Watt-Freq制御 有効電力変動に対する
周波数調整制御
Var-Volt制御 無効電力変動に対する
電圧調整制御
疑似慣性 慣性模擬の周波数制御
自立運転 系統解列時の運転継続

2.2 電圧源動作スマートPCS自立運転試験

開発した電圧源動作スマートPCSの自立運転機能検証のため,単体試験を実施した。

(1)試験条件

図2にFDN(次世代配電ネットワーク)試験場内の試験設備構成を,表2に試験設備諸元を示す。電圧源動作スマートPCSは試験線Aの需要側に接続されている。試験手順は以下の通り。

  1)系統連系下で電圧源動作スマートPCS(放電0kW設定)稼働

  2)負荷として模擬負荷装置稼働

  3)試験線A内開閉器を開放し系統解列(オフグリッド化),電圧源動作スマートPCS自立運転

  4)電圧源動作スマートPCSが電圧・周波数形成して負荷に電力供給し運転継続

図2 FDN試験場簡易構成図
表2 自立運転試験主要設備諸元
NaS電池
スマートPCS定格出力 200kW(50kW×4台)

※試験は1台で実施

NaS電池定格出力 放電200kW / 充電240kW
NaS電池定格容量 1,520kWh
連系点電圧 三相6.6kV
模擬負荷装置
定格容量 123kW(41kW×3相)

※試験は2kW×3相で実施

連系点電圧 三相6.6kV

(2)試験結果

図3に試験結果の例を示す。系統解列後瞬時かつ自律的に電圧・周波数を形成し,負荷(模擬負荷6kW + 制御電源)に電力供給できていることが分かる。

(a)FDN試験場内電圧(実効値)および周波数
(b)電圧源動作スマートPCS出力有効/無効電力
図3 自立運転試験波形

3VSGとの並列運転試験

3.1 VSG概要

(1)VSGとは

VSG(仮想同期発電機)は同期発電機の物理特性を模擬した制御系を持ち,GFMを実現する方式の一つである。特徴的な機能の一例として,疑似慣性およびドループ制御注7)がある。疑似慣性は同期発電機が持つ慣性を模擬する機能であり,ドループ制御は回転数(周波数)変動に対する有効電力(負荷分担)の特性を模擬する機能である。また川崎重工業株式会社のVSGは,GFMを実現する制御方式として出力電流を演算し用いる電流制御方式に分類されることが特徴である。

(2)VSGと電圧源動作スマートPCS比較

2.1節および3.1節(1)項を比較すると,VSGと電圧源動作スマートPCSは同じGFMであっても異なるシステムのように見える。理由の一つとして研究開発方針がある。東光高岳のスマートPCSは配電機器として系統運用者からの集中制御注8)による活用を想定して開発しているが,VSGは一般に集中制御を必要としない。

一方で各機能には類似性がある。図4に一例として,VSGにおけるドループ制御と電圧源動作スマートPCSにおけるWatt-Freq制御の特性概念図を示す。異なる制御理念であっても結果として類似した特性を示すため,両者から得られたデータを比較解析することが可能である。

図4 自立運転時の周波数-有効電力特性概念

3.2 スマートPCS-VSG並列運転試験

IBRが主力電源化した系統における諸課題検証のため,学校法人東洋大学,川崎重工業株式会社と共同で複数メーカの系統連系インバータ並列運転試験を実施した。表3に役割分担を示す。

表3 共同試験役割
学校法人東洋大学 ・試験内容への知見提供
川崎重工業株式会社 ・VSG提供
株式会社東光高岳 ・スマートPCS提供
・実証試験設備構築

(1)試験条件

図5に試験構成図を示す。東光高岳小山事業所内に川崎重工業株式会社設備(VSGおよび系統シミュレータ(系統模擬電源))を設置した。FDN試験場内のスマートPCSとは構内に敷設した専用線で連系している。はじめにスマートPCSをGFLとして一連の試験を行い,その後GFMとして同様の試験を実施した。

図5 FDN試験場簡易構成図(並列運転試験設備含)

(2)試験結果

2024年10月に共同並列運転試験を完了した。主な成果は以下の通りである。
・複数メーカによるGFMを並列運転し,運転継続を確認
・SSO発生メカニズムの解明および対策立案,効果を検証
詳細については,別途共著論文を発表するため本稿では省略する。文献(8)および今後発表予定の共著論文を参照されたい。

4おわりに

本稿は再生可能エネルギー・蓄電システムといったIBR導入における課題とGFMタイプ系統連系インバータについて示し,東光高岳におけるスマートPCSの取り組みを紹介した。東光高岳では今後もFDN試験場設備やシミュレーションを活用して電圧源動作スマートPCSやVSGなどGFMの研究を進め,脱炭素電源であるIBRの導入拡大と系統安定性維持の両立に貢献する所存である。

5謝辞

本稿の内容は共同研究を行った学校法人東洋大学,平瀬祐子准教授(現在,関西学院大学),川崎重工業株式会社よりご指導を賜り実施することができました。ここに厚く御礼申し上げます。

■参考文献

(1)一般社団法人電気学会:「用語解説第142回テーマ:スマートインバータ」,https://www.iee.jp/pes/termb_142/(2025年4月30日閲覧)

(2)川崎重工業株式会社:「Virtual Synchronous Generator(iVSG™)」,https://global.kawasaki.com/en/energy/vsg.html(2025年4月30日閲覧)

(3)一般社団法人電気学会:「用語解説第116回テーマ:仮想同期発電機制御インバータ」,https://www.iee.jp/pes/termb_116/(2025年4月30日閲覧)

(4)株式会社東光高岳:「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた技術検証を開始」,https://www.tktk.co.jp/news/entry/000391.html(2025年4月30日閲覧)

(5)一般社団法人電気学会:「用語解説第152回テーマ:非同期電源比率(SNSP)」,https://www.iee.jp/pes/termb_152/(2025年4月30日閲覧)

(6)電力中央研究所:「電気新聞ゼミナール(280)インバータ電源による電力系統の安定化にはどのような課題があるか?」,https://criepi.denken.or.jp/press/journal/denkizemi/2023/230329.html(2025年4月30日閲覧)

(7)井手,平瀬,吉村,梅津,阪東,杉本:「インバータベース電源で構成されるマイクログリッドの電力動揺要因の特定と安定性向上」,電気学会論文誌B,145巻3号pp.299-310(2025)

(8)井手,平瀬,梅津,杉本,小野,吉井:「異なるメーカの系統連系インバータ間の低周波振動抑制に向けた数学的解析および実証試験報告」,電気学会電力技術/電力系統技術合同研究会,東北大学(Web),PE/PSE-24-166(2024年9月19-20日)

(9)吉井誠:「蓄電池用スマートインバータの実証試験を配電ネットワーク実証試験場で開始」,東光高岳技報,No.8 pp.16-19(2021)

(10)茂木規行:「配電ネットワーク実証試験場」,高岳レビュー,No.175 pp.19-23(2011)

■語句説明

注1) IBR:インバータベース電源。直流発電源である太陽電池,蓄電池などは交流系統に連系するため系統連系インバータ(PCS)を介する必要がある。また風力などの交流発電源についても,電圧や周波数を安定させる目的で直流変換を介してIBRとなる場合がある。

注2) 電圧源:負荷(需要)に対し,負荷変動によらず一定の電圧を供給する電源。GFMは系統に対し一定の電圧・周波数を供給するため,電圧源動作が要求される。従来の系統連系インバータは一定の電流を供給しようとする電流源動作である。

注3) S+3E:日本におけるエネルギー政策の基本方針。安全性(Safety)を大前提とし,同時に自給率(Energy security),経済効率性(Economic efficiency),環境適合(Environment)を達成する取り組み。

注4) 慣性:慣性力とも表記される。系統内における同期発電機が持つ回転エネルギーの総量[J]。同期発電機の定格容量[W]と慣性定数[s]の積で表される。電力エネルギーにおける需要と供給間の差異が回転エネルギーとして吸収されることで周波数変化率(RoCoF)を抑制し,系統安定化制御までの時間を確保する。慣性不足はRoCoFの増大や系統安定化制御までの時間猶予が短くなることを意味し,系統擾乱や大規模停電などのリスクが増加する。

注5) SSO:日本語では低周波電力振動などと表記される。電源間の相互干渉に起因し,定格系統周波数以下の周波数で系統電圧が動揺する現象。系統不安定化や機器損傷などの一因となる。

注6) PLL:Phase Locked Loopの略。位相同期ループ。電圧や電流などの周期波形入力を基準とし,入力に同期した位相や周波数などを出力するフィードバック制御。系統連系インバータにおいては,系統周波数・位相の取得に広く利用される。

注7) ドループ制御:垂下制御とも表記される。入力量増加に対し出力量を抑制させる制御であり,特性として負の傾きを持つ。

注8) 集中制御:系統運用者が系統内のスマートメータや各種センサからリアルタイムでデータを集約して全体最適条件を演算し,その結果に基づいて各地の電力機器を制御する手法。

小野 晋也
GXソリューション事業本部 事業開発推進室
グリッドイノベーション推進グループ 所属

吉井 誠
GXソリューション事業本部 事業開発推進室
グリッドイノベーション推進グループ 所属

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