電気自動車用中容量急速充電器の開発について
- 山本 脩斗
- 鈴木 健司
- 鈴木 剛志

近年、ガソリン車から電気自動車(EV)へのシフトが世界的に進んでいます。世界からやや遅れをとっている日本でも、2050年カーボンニュートラル実現を目指した取り組みは活発化してきており、日本政府からは「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」ことが表明されました。自動車産業は、今まさに変革期を迎えています。
EV普及拡大のためには、充電インフラの拡充が必要不可欠です。東光高岳はEV用急速充電器のトップシェアメーカーとして、幅広いEV充電ソリューションを提供することでEV社会を支え、カーボンニュートラルの進展、地球温暖化対策に貢献しています。
今回、更なる充電インフラの拡充に貢献すべく、急速充電と普通充電の中間領域のニーズに対応する中容量急速充電器を開発しました。ここではその製品開発における取り組みや、東光高岳の今後のビジョンについてご紹介します。
Technology
壁掛け設置にも対応した中容量急速充電器
高速道路のサービスエリア等に設置されている50kW出力の急速充電器は、一般的に1回当たりの充電時間は30分であり、目的地に向かって移動する際の充電に用いられます。しかし、ショッピングモールやレジャー施設など、滞在時間が2~3時間の場であっても、50kW急速充電器では30分後に次の利用者に駐車スペースを明け渡す必要があり、EVを移動させなければなりません。一方で、2~3時間の普通充電(3~6kW程度)では充電電力量は十分ではありません。また、EVを移動しないで済むように、50kW急速充電器を複数台設置するためには、電源設備の増強や設置場所の確保が必要となるなどの課題があります。
今回開発した中容量急速充電器は、急速充電と普通充電の中間領域のニーズに応える充電器です。最大15kW出力の薄型壁掛けタイプで、普通充電器(3~6kW程度)より早く充電ができ、50kWの急速充電器より出力が小さいため、電源設備を増強しなくても同じ施設に複数台設置することが可能となります。
本体の厚さは業界最薄の200㎜※を実現し、事業所、工場、ビルなどにおける限られたスペースにも設置できます。壁掛けのほか、従来同様自立型の設置も可能です。
充電時の操作性の面では、従来の急速充電器より出力が小さい特徴を活かして、細いケーブルを採用することで取り扱いやすくしました。ディスプレイでの操作性は、従来の急速充電器の長所を引き継ぎ、ガイダンスに従うだけで誰でも簡単に充電ができます。
今後はクラウド連携による充電管理システムや、遠隔管理への対応などを予定しています。お客様の負担を軽減し、より便利にお使いいただけるようバージョンアップを図っていきます。
※2023年2月21日時点。株式会社東光高岳調べ

Profile
-
山本 脩斗GXソリューション事業本部
システムソリューション製造部
開発グループ -
鈴木 健司GXソリューション事業本部
システムソリューション製造部
開発グループ
主任 -
鈴木 剛志GXソリューション事業本部
システムソリューション製造部
開発グループ
副課長
求められたのは、程良い充電力と小型化
山本日本で普及が進んでいるEVの充電器としては、高速道路や道の駅などで見かける50kW出力が主流の急速充電器と、ショッピングモールなどに併設されている3~6kW出力が主流の普通充電器の2種類に大別されます。現在、街中にある充電器では、課金方式にもよりますが、1回の充電に30分といった時間の制約があります。30分では普通充電器の場合、10~20%程度しか充電できません。どこにでも急速充電器が置ければ解決するかもしれませんが、場所や電源設備事情、さらにはコスト面などで難しいケースが多くあります。「お客様の滞在時間に合わせ、ストレスフリーかつ、満足のいく充電をしたい」、そのようなニーズに応えるために、この中容量急速充電器の開発がスタートしました。
鈴木(剛)補足すると、「中容量」という言葉自体は一般的ではありません。普通充電と50kW出力急速充電の間に位置する容量ということで、あくまでも当社独自の呼び名になります。
山本中容量急速充電器は出力容量15kWで開発しました。大型化しがちな急速充電器に対し、この製品では小型化を目指した筐体設計に取り組んでいます。充電器を既設駐車場に新規導入する際、これまでは駐車場をひとつ減らして充電器を設置されることも多かったのですが、今回のタイプは、奥行きが従来機種と比べて半分のサイズになり、加えて壁掛けでの設置も実現したため、あらゆる設置方法に対応した充電器になっています。

様々な課題を乗り越えて実現した小型化
山本私はこのプロジェクトのリーダーとして全体を見つつ、筐体設計とハードウェア設計を担当しました。小型化は従来機種からも課題ではあったのですが、より突き詰めるために筐体設計とハードウェア設計を並行して行い、内部部品を効率よく配置することを意識しながら設計を進めました。また、設計完了後に行う試作器の組み立ても設計者自身が行い、とにかく最初から最後まで設計者の目で見ることで、組み立てや内部の配線の引き回しなど少しでも無駄な場所をなくせるようにこだわっています。
鈴木(剛)私の担当は山本と同様に、筐体設計とハードウェア設計です。小型化ということで、お客様にとってどういった形が受け入れやすいのかというところを特に意識して取り組みました。また、導入コストを含めての小型化を目指していたので、お客様が導入しやすい価格帯を目指すというところにも力を入れています。
山本なるべく筐体を大きくしないようにするため、結果的に内部には部品がびっしり詰まる形になり、検証試験では筐体内の温度上昇といった問題にも直面しました。部品を追加して対策することは可能ですが、物理的にもコスト的にも小型化を掲げている以上、安易な追加はできません。筐体内の変更は行わず、既存部品を上手く活かすことで解決できましたが、そこに至るまでに検証試験を何度も繰り返したところは苦労しましたね。
鈴木(健)私はソフトウェア設計を担当しました。従来機種(急速充電器)から引き続きの担当ということで、従来機種のソフトウェアをベースに今回の中容量急速充電器に合わせてチューニングしていく方針でした。今回は早期リリースが特に重要でしたので、ソフトウェア開発者の立場としてはいかに早く仕上げるかというところに注力しました。ハードウェア設計と連携したソフトウェア設計が求められますので、先に山本が申した課題に対しては、ソフトウェア面からも“何かできないか”という視点で考え、チーム全員で話し合いながら対応しました。
山本従来機種よりご購入いただいているお客様からは、今回の小型化した中容量急速充電器に関して、非常に期待していただいております。また展示会への出展やプレスリリースで大々的に発表したことで、既に多くの引き合いをいただいています。

目まぐるしく変化する充電インフラ業界で
メーカーとしての責務を果たす
鈴木(健)今後の開発では、複数台設置された充電器の上位にコントローラーを置いて、もともとの電源容量を超過しないようバランスを取るような仕組みを検討しています。50kWの電源設備をお持ちのお客様が、設備容量の増強はせずに15kW出力の中容量急速充電器を4台(計60kW)置きたいといった場合に、4台のうち使っていない充電器の充電容量を下げて3台(計45kW)で稼働させたり、満充電に近い車に対して出力を絞ったりといった動きをさせることでニーズが満たせると考えています。また、日本の今後の方針として「2035年までに新車販売をEV100%にする」という話も出ていますので、当社が目指すべきところとして充電インフラの拡充がひとつのミッションになってくるでしょう。 充電のシチュエーションは、基礎充電、目的地充電、経路充電と様々です。その中で当社は、経路充電用の製品を提供することが多い状況ではありますが、その他の充電シーン向けの開発が課題になってくると思います。
鈴木(剛)充電インフラに関わる業界は、今後も目まぐるしいスピードで変容していくと見込まれています。我々メーカーとしてはそれについていく、むしろ我々がそういった流れを作っていかなくてはならないと感じています。市場の動向やお客様の要望を理解し、様々な製品で、そして早い製品リリースで需要を満たしていくこと。それがメーカーとしての責任であり義務だと第一に考え、さらなる研究開発に邁進していきたいと思います。
山本個人的には今回のプロジェクトで様々な設計を行い、またリーダーとしても多くの経験を積ませていただきました。今回経験したことを活かして今後も機能拡充、新機種開発に取り組み、短期間での開発、市場への早急な投入とともに、より一層の充電インフラ拡充に向けて貢献していきたいですね。

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