EV充電は、出かけた先で用事の合間に。aima CHARGE
- 栗田 未來
- 牛田 賢吾
- 鈴木 健司
- 藤本 千紘

脱炭素社会を目指す日本では、「2035年までに乗用車の新車販売で電動車を100%とする」という目標を掲げています。電気自動車(以下、EV)普及のためにはEV充電インフラの普及拡大が必要不可欠であり,経済産業省より2030年までに30万口のEV充電インフラを整備するという目標が示されています。
東光高岳では、広く採用いただいているEV急速充電器シリーズを、新たなブランド「SERA(※)」として展開することを発表しました。また、パーク24株式会社およびタイムズ24株式会社と共同で、EV充電サービス『aima CHARGE』(あいまチャージ)の実証試験を時間貸駐車場「タイムズパーキング」で2024年7月から開始しました。EV普及を見据えた充電サービスのさらなる利便性向上に向けて様々な検証を進めています。
※SERAについてはこちらをご覧ください。

Technology
中容量急速充電器を使用した従量課金制のEV充電サービス

高速道路のSA/PAや商業施設に設置されている急速充電器(50kW以上)は、1回の充電時間が30分に設定されていることが一般的で、充電後には次のユーザーのためにEVを移動する必要があります。一方で、自宅などに多く設置されている普通充電器(3~6kW程度)の場合、外出先での数時間では十分に充電できません。
2022年に東光高岳が開発した中容量急速充電器SERA-15は、最大15kW出力の充電器で、3~6kW程度の普通充電器より早く充電ができ、1~4時間駐車するような場所での利用に適しています。また、充電器本体は、厚さ200mmというこれまでにない薄型である上に壁掛けタイプであることが最大の特徴で、限られたスペースへの設置に適しています。(自立型スタンドを使用することで壁が無くても設置可能です。)
aima CHARGEは、SERA-15の特徴を活かし、外出先で1~4時間程度の駐車時間を使った充電(目的地充電)をしたいEVユーザーのために、充電した電力量に応じた料金を支払う従量課金制の充電サービスです。また、スマホアプリから充電操作や充電電力量の確認が可能です。
Profile
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栗田 未來GXソリューション事業本部
EVインフラ推進室 -
牛田 賢吾GXソリューション事業本部
システムソリューション開発部
開発グループ -
鈴木 健司GXソリューション事業本部
システムソリューション開発部
開発グループ -
藤本 千紘戦略技術研究所
技術開発センター
ICT技術グループ
中容量急速充電器の充電時間を活かしたEV充電サービスの開発背景
栗田私の所属するEVインフラ推進室は、急速充電器の販売を行う営業部門です。その中で私は急速充電器関連の広報や展示会対応などを担当しています。
鈴木私は開発グループで、aima CHARGEに採用したSERA-15の開発に携わっていました。aima CHARGEでは、SERA-15のソフトウェアの変更や、ネットワーク通信部分の追加などを主に担当しました。
牛田私はハードウェア設計の担当です。SERA-15をaima CHARGEの充電サービスにつなげるための機器を新たに設計しました。
藤本私は戦略技術研究所でGXソリューション事業本部と連携をしながら、EVインフラ事業の開発を進めています。以前、従量課金できる充電サービスを他社と共同開発した経験を活かし、SERA-15をaima CHARGEに適用するための仕様検討やアプリの導入を中心に行いました。
栗田東光高岳では、これまで様々な急速充電器の製造・販売を行ってきました。今後は製品販売だけでなく、既存の製品ラインナップを用いた充電サービス展開も視野に入れて活動していく予定です。その取り組みのひとつとして、当社の急速充電器シリーズを「SERA」のブランドで発表しました。
EV充電の利用は、高速道路のSA/PAや商業施設で50kW以上の大容量の急速充電器で30分間行う、もしくは自宅で3~6kWの普通充電器で一晩かけてゆっくり行うことが一般的です。
私たちが提供するaima CHARGEは、1~4時間程度滞在する場所に、同程度の充電時間に対応する中容量急速充電器SERA-15(15kW)を設置すると、ちょうど駐車している時間で適度な充電を行うことができて利便性が高いのではないか、という仮説を元に考案したサービスです。
その仮説から、ショッピングモールや映画館、スポーツジムといったSERA-15に適した滞在時間を見込める場所への設置を検討していきました。そして、買い物客も利用する駐車場を多く運営するタイムズ24と協力し、aima CHARGEの実証試験を始めることになりました。
aima CHARGEというサービス名は「EV充電は、出かけた先で用事の合間に」というコンセプトから名づけました。
鈴木SERA-15は開発当初、事業者の駐車場をターゲットとしていました。事業所内での充電は、事業所員のみが利用するため、ユーザーの認証や課金の必要はありません。しかし今回のaima CHARGEは、公共の場で様々なユーザーが利用するため、ネットワーク接続機能をSERA-15に追加して認証や課金に対応することになりました。
藤本私たちが充電サービス事業の発足を伝えられた時には、2024年7月のサービス開始が決定しており、開発内容から考えるとタイトなスケジュールで進める必要がありました。メンバーは部門をまたいで選出されたので、実際にこの4人が集まったのはこのインタビューが初めてですね。
鈴木普段仕事をしている場所や部署が違うメンバーとの共同開発なので、打ち合わせにはチャットツールを活用し、情報を共有しながら開発を進めました。

aima CHARGEリリースに向けたプロジェクトメンバーの挑戦
栗田7月に決定していたaima CHARGEのリリースに合わせて、名称やロゴの考案、問い合わせ窓口の設置、ホームページ作成のほか、販促に関する部分などを2月頃から進めていきました。私の受け持つ部分では3月から5月までのスケジュールが特にハードでしたね。
東光高岳としては、充電器の設置台数を増やすことでユーザーの需要に応えたいと考えていますが、まだまだ少ないのが現状です。同じ部署の営業担当から聞いた苦労話なのですが、EVがまだ一般的ではないことや、設置場所の条件を整えられないケースもあり、提案を差し控えた案件もあったそうです。一方で、駐車場の車室数を減らさずに空きスペースに置けるSERA-15は、提案していくにあたっては強みとなります。


限られたスペースでも設置可能なSERA-15
藤本私の担当部分では、東光高岳の提供するサービスとしては初の試みであるスマホアプリの導入が課題でした。
まず、アプリをリリースするにあたって、法人アカウントの作成から始めました。次にリリースするアプリを審査に提出したのですが、何度もリジェクトされました。英語で書かれた指摘事項を読み解き、対応方法に悩み、アプリの協力会社に相談もしました。国の違いによる時差や認識の差を感じながらのやり取りには時間がかかりましたね。
また、アプリはリリースして終わりではありません。今後も機能の改良や、各アプリストアの規定変更、OS更新などのタイミングでアプリのバージョンアップが必要になるので、継続的にフォローしていかなければいけません。アプリのリリースは私一人が担当したので、今後も丁寧にフォローし続けていくために部署内での共有が必要だと感じ、マニュアルも作成しました。

鈴木 当社の充電器で充電サービスを提供するには、他社の充電サービスに接続する必要があります。しかし今回は、他社の充電サービスへの接続に加えて、自社でも充電サービスを並行開発するとあって、当初は全体像が具体的に見えないもどかしさを感じていました。最終的な形態でテストできるようになったのはリリースの1ヶ月前とタイトなスケジュールでした。
充電サービスの品質を確保するための検証が特に大変でした。スマホアプリの操作でマニュアル通りの動作を検証するのはもちろん、ユーザー側がイレギュラーな操作をするケースも想定しなければいけません。スマホアプリは操作が柔軟にできるために、想定パターンを全て洗い出すのに時間が必要でした。
牛田ハードの面では、充電器をコントロールするコントロールボックスと、電源を供給する電源ボックスの2つを新たに製作しています。市販の盤(ボックス)を基に、コントロールボックスの中にはコントローラーやルーターなどの通信機器を、電源ボックスには従量課金に対応できるメーターなどを配置しました。今後の機能追加にも対応するため、追加の機器が配置できるよう拡張性も意識しつつ、ボックスのサイズはなるべくコンパクトなものを選びました。私自身がハードウェア設計を一から行うのが初めての経験だったこと、非常に期間が短かったことが重なり大変だったなと思います。先輩方の意見を聞きながらなんとか出荷に間に合った時には一安心しました。

(左)電源ボックス(中央)SERA-15(右)コントロールボックス
サービス普及に向けた今後の展望:カーボンニュートラル実現へ
栗田実証試験開始以降、お客様から問合せフォームや電話で使い方についてのお問い合わせをいただくこともあります。私の所属する部署の室長が自ら渋谷と川崎を定期的に回り、その場で使っている方から貴重なご意見をいただくことも。今は問題が起きた時に駆けつけられる範囲での実証ですが、正式運用になれば都内近郊に限定せず、ゆくゆくは全国にサービスを展開したいと考えています。実証で得られるデータは事業展開する上で活用していきたいです。
藤本これまで充電電力量に関するデータなどは見てきましたが、リピート回数や充電時間など、人の動きに関するデータの解析は当社では初の試みです。例えば、駅周辺に用事がある方が2~3時間充電しているという情報からは、想定していたaima CHARGEのニーズと近い使われ方であることがわかります。
鈴木ウェブ上から利用状況や機器の状態を管理できるシステムになっており、定期的な確認を行っています。今回のサービスの開発を通して、エンドユーザーの利用シーンまで踏み込んで考えることが増え、ユーザー目線での使いやすさをより考えるようになりました。
栗田今後はaima CHARGEの導入箇所を増やしていきたいと思っています。お客様のニーズは1つのパターンに絞られないはずです。駐車場が駅前であるとか、駅からは離れているけどお店が多いといった地域的な特徴を含むデータをもっと多く集めたいですね。その上で、aima CHARGEの導入によって駐車場の稼働率が上がったというデータがあれば、駐車場のオーナーさんにaima CHARGEを導入いただくための説得材料にもつながります。
実際にどのように使われているのかを把握するために、私も現地で直接ユーザーさんに用途調査をしたいという思いがありますが、まずはホームページや広告などを通してサービスを知ってもらえる機会を増やしたいですね。近いうちにサービス紹介動画を作成する予定です。
鈴木サービス事業としてaima CHARGEの知名度が上がれば、SERA-15以外のSERAシリーズにもサービスを適応できるようになるかもしれません。付加価値を増やすことにより、充電器の販売台数が増えれば開発担当としてとても嬉しいです。
牛田EV充電サービスへの参入が、私たちの目標である「モノ売りからコト売りへ」の足掛かりにできればいいですね。現在はaima CHARGEの実証実験の段階ですが、今後の量産化に向けてコントロールボックスにも改善点があると思っています。ハードの担当としては、これからも価格を抑えつつ品質の良い製品作りを心がけたいです。
栗田同じ業態のサービスとしては、15kWに限定して充電サービスを提供している事業者は他にいないでしょう。まずは広くaima CHARGEを知っていただいて、EVの普及に貢献し、カーボンニュートラル実現につながれば嬉しいです。

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