電力の速やかな復旧を実現する故障区間検出装置の開発
- 楢木 陽一
- 椎野 有貴

私たちの生活に欠かせない電気。発電所から家庭に届くまでの間に経由するいくつもの変電所も、電力の安定供給のために重要な役割を担っています。
変電所には、変圧器や遮断器などの受変電設備のほかに、それらを回路として繋いでいる電線(母線)があります。母線に落雷などの事故が起こると、その変電所から供給を受けている広いエリアが停電してしまうことから、事故をいち早く検知し早期復旧させる必要があります。しかしながら変電所の多くは無人であるため、まずは装置により事故によって故障した区間を検出し自動復旧を図るのですが、その役割を担う装置の一つが故障区間検出装置です。
東光高岳では、光ファイバ内蔵ポリマーがい管に事故時の電流を検出できる光電流センサー(以下、光CT)を取り付けた新形光CT付気中断路器(以下、新形断路器)と、従来形から大幅に小型化した検出盤にて構成される故障区間検出装置を開発しました。
Technology
塩害や地震に強い新形故障区間検出装置
今回開発した故障区間検出装置は、光ファイバ内蔵ポリマーがい管と光CTを組み合わせた新形断路器と、検出盤、そしてそれらを繋ぐ光ファイバケーブルで構成されています。
新形断路器には、光ファイバーとがい管を組み合わせる技術を有するRPC※社のポリマーがい管を採用しました。沿岸地区など空気中に塩分を多く含む超重汚損地区に対応するにあたり、従来品では磁器がい管の沿面距離が短いことが課題でした。ポリマーは磁器よりも成形しやすいため、従来の磁器がい管と同じ大きさで耐塩性能の高い(沿面距離の長い)ポリマーがい管を製作できます。新形断路器は耐塩性能の高いポリマーがい管を採用し、超重汚損地区にも納入できる仕様としています。また、光CTがポリマーがい管上部に設置されることで地震による揺れの影響を受けやすくなるため、ポリマーがい管の胴径を大きくすることで対策しています。
検出盤は、当社で製作している従来品をベースとしながら、限られたスペースにも設置できるように小型化しています。筐体はキャビネット形を採用し、キャビネットの正面扉に装置異常LEDと制御電源LEDを実装することで、扉を開けなくても運転状態を把握できるようにしています。
※)Reinhausen Power Composites GmbHの略称。ドイツの高電圧用複合絶縁体のメーカー。

Profile
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楢木 陽一電力プラント事業本部
第二設計部
保護制御装置設計グループ -
椎野 有貴電力プラント事業本部
第二設計部
保護制御装置設計グループ
これまでの積み重ねを活かした新形装置の開発
楢木変電所の母線で事故が起こると、その変電所が受け持つエリアがすべて停電してしまいます。変電所は無人であることが多いため、まずは装置によって母線上の事故によって故障した区間を見つけ出します。その役割をする装置の一つが故障区間検出装置です。いち早く故障した区間を見つけ出すことで事故による停電から早期復旧できるようにすることがこの装置の目的です。
当社では故障区間検出装置にこれまで磁器がい管を使用した光CT付断路器を採用しており、ポリマーがい管を使用したことは無かったため、今回新たに開発することとなりました。
椎野断路器と呼ばれるものは通常光CTがついていませんが、母線についている断路器に光CTを組み込むことで、事故時の電流を検出するセンサーを母線のある高所に別途取り付ける手間が省略できます。過去には同様の製品を扱っていたメーカーもありましたが、現在、断路器に光CTを組み合わせた装置を開発・製品化しているのは当社のみです。
楢木私はこの装置を開発する前にも類似の案件に携わっていたため、装置の全体的な仕様の検討と検出盤の開発、それから今回の案件全体のとりまとめも担当しました。検出盤は、建屋の中の限られたスペースにも置けるよう、従来品に対して小型化しました。
変電所への納入時期が決まっていて、開発期間が限られていたこともあり、スケジュール管理には特に気を遣いました。取り組んでいく中で再検討や手直しの必要がでてきてしまい、全体をとりまとめる立場としてスケジュール管理のプレッシャーは感じていました。
椎野私は入社時から長年にわたって光CTに携わってきたこともあり、検出盤のセンサーに関わる開発を担当しました。検出盤の小型化にあたっては盤内の光ケーブルの配線を再検討したほか、検出盤の据え付け方法や操作方法に関する取扱説明書の作成なども行いました。
今までの検出盤はかなり大型だったこともあり、当社の人間が現地に行って据え付ける必要があったのですが、今回小型化したことによりお客様側でも据え付けができるようになりました。そのため、取扱説明書をはじめとした資料をより詳細に作成し、わかりやすくなるよう心掛けました。

部署や経験の異なる仲間たちとの挑戦:より良いものを作るために
楢木開発試験では、公的な規格やお客様独自の規格を満たしているか、多くの項目を確認します。今回の開発ではこれまで私が携わってきたお客様の規格にはない試験を実施する必要がありました。過去に実施したことのある試験であれば、仮に失敗した場合でも経験から原因や対策の予想を立てやすいのですが、経験のない試験ではそうはいきませんでした。実際に1回目の試験では基準値を超えてしまい、社外の試験場から部品を借りて付け替えたり、有識者の知見を借りたりして、試行錯誤しながら対応しました。わからないことが多く、苦労しました。
椎野 私の担当した部分では検出盤内の配線が難しかったですね。小型化したことによって、これまでに比べてほとんどスペースがない中で必要な部材と配線を収める必要がありました。特に、光ケーブルは内部がガラスであり、あまりきつく曲げられないため、折れないように注意しつつコンパクトにまとめなければいけません。そこで、試作品に対していろいろ試しながら配線を決めていきました。さらに、組み立てや施工性に関して問題がないか確認するため、関係者から様々な視点の意見をいただき修正しました。部材の向きや配線の位置を工夫したりしてなんとか収められました。
楢木ここにいないメンバーも含めた全員で、よく話し合って取り組んでいましたね。
椎野 故障区間検出装置には複数部署が関わっているため、断路器部門の方々をはじめ社内の他部署とのやり取りもありましたね。また、取扱説明書を作り込む段階では、検出盤に関する経験が浅い方に作成した取扱説明書を見ながら操作をしてもらい、意見をもらいました。操作に慣れている私たちだけでは気づけなかった部分も修正できたのがよかったです。


完成のよろこび そして次の開発へ
楢木開発当初に予定していた規格・仕様を満足しつつ、全体としてうまくまとまった装置になったのではないかと手ごたえを感じています。初号機の出荷時、トラックに乗って出荷されていくところを見て「ああ、無事に完成したんだなあ」と感慨深かったですね。 今後、今回開発した故障区間検出装置が新たなスタンダードモデルとして納入されることを期待しています。この開発に携わって初めて経験したこともありましたので、得た経験・知識をほかの装置の開発にもしっかりと役立てていきたいと思います。
椎野限られたスケジュールの中で開発をすることに難しさもありましたが、規格・仕様を満足することができ、無事に現地での運用が始まってホッとしています。3DCADを導入したことで検討をスムーズに進められた部分もあったので、今後のほかの開発にも適宜活用していきたいと考えています。また、限られたスペースに対する配線方法や部材の配置、それによる熱のこもり方など得られた知見も多かったので、この経験からの学びも今後に活かしていきたいですね。
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また近年、日本では自然災害が増加しており、緊急事態発生時の影響を最小限に抑え、事業の継続や早期復旧をするための方法・手段を取り決めておくBCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)が重要視されています。