研究開発
技術者インタビュー

携帯通信システムの開発

  • 矢澤 健一
  • 中山 匡

世界規模で急成長しているM2M(Machine to Machine:機械と機械がつながる)市場を牽引する要素のひとつとして、携帯回線を使ったデータ通信が挙げられます。電力業界においても、太陽光発電をはじめとする分散型電源の普及やデマンドレスポンスへの取り組みを背景として、M2M技術への対応が進められています。

東光高岳では、電力の安定供給や多様化するエネルギーをリアルタイムで"見える化""制御・コントロール"するシステム構築の要素技術として、高セキュリティで安定的かつコンスタントにデータ送受信を行える通信システムづくりを目指して、2009年より携帯回線を用いたデータ通信システムの構築に取り組んできました。今回はそのような研究開発のなかから、Long Term Evolution(以下 LTE)回線を使用した携帯通信システム開発の取り組みをご紹介します。

Technology

スマートグリッド社会の情報伝送を支える、LTE回線を使用した通信システムの開発。

東光高岳では、分散型の自然エネルギー系統連系制御や、電力自由化に伴うデマンドレスポンスなどの基盤システムとして、LTE回線を使用する携帯端末および、携帯端末からデータ収集するサーバを含めた携帯通信システムを開発しました。このシステムによって、計測/制御対象となる機器の電力使用量や運転状態を遠隔でリアルタイムに収集し、その情報を携帯サーバへ保存することや、需給調整を行う上位サーバを経由して携帯端末から各機器へ制御指令を行うことなどが可能となります。

携帯端末は、基本ソフトにQNX※1を採用したインテリジェントネットワークコントローラ(以下、STiNCⅡ)※2と汎用の携帯通信用モジュールで構成。これによって、リアルタイム性・信頼性の向上を図りました。また、計測対象機器との通信プロトコルとして、Modbus/TCPとECHONET Lite※3を採用し、様々な機器と接続ができる汎用性も担保しています。携帯端末が使用するLTE回線は強固なセキュリティに加えて、従来の携帯通信よりも通信速度が格段に速く、様々な分野への適用が考えられます。今後は、フィールド検証を通して、運用上の課題を洗い出す予定であり、そこで得られた成果をもとに本システムを利用した製品・サービスの開発とスマートグリッド社会の実現を情報伝送の分野から推進することを目指します。

※1)QNXソフトウェアシステムズが開発した組込みシステム向け商用リアルタイムOS
※2)インターネットを通して様々なシステムを構築することができる汎用ゲートウェイ装置(東光高岳製)
※3)家電機器の状態監視および制御を行うための国内標準プロトコル

Profile

  • 矢澤 健一
    矢澤 健一
    技術開発本部 技術研究所
    ICT技術グループ グループマネージャー(開発時)
  • 中山 匡
    中山 匡
    技術開発本部 技術研究所
    ICT技術グループ

電力インフラの情報通信を支える神経系づくり。

中山自然エネルギー活用に対する意識の高まりや電力自由化など、電気を取り巻く環境はこの数年で様変わりしつつあります。たとえば、電力消費量を需要家も一体となってコントロールすることを目的としたデマンドレスポンスや、スマートメーターの普及拡大への取り組みは急速に進められています。

矢澤また、同様に広がりをみせる太陽光発電をはじめとする分散型電源は、天候によって発電量が大きく左右されます。そのため、需要(使用量)と供給(発電量)のバランスを予測し、制御・運用するための技術開発は緊急の課題になっています。そういった背景のなかで、電力の安定供給や多様化するエネルギーをリアルタイムで"見える化""制御・コントロール"するシステム構築が必要になっています。

中山東光高岳では、次世代の電力インフラを監視・制御するための通信システム開発に取り組んできました。具体的には、2009年から携帯通信システムの開発に着手し、様々な電力機器に導入してきました。

矢澤携帯回線は、回線の設置が不要で、電波が届く場所であればどこにでも設置できます。また強固なセキュア通信も強みのひとつです。電力インフラを支えるための通信システムですから、信頼性の高いものをつくってきたという自負があります。大げさかもしれませんが、電力機器の制御装置が正しく作動しなければ、大きな停電につながることだってありますから。

中山このような電力系統の変化のなかで、電力データの計測をこれまで以上に安定的に早く送受信するための技術が必要になってきました。そこで私たちは、計測データの即時通信、短い周期での計測データ通知、制御命令等の即時実施など、3G回線以上のメリットがあるLTE通信技術を活用した通信システムに取り組んできました。

矢澤2015年1月頃から開始した本研究は、いわば電力インフラの上流から下流までのあらゆる情報を収集し、電力機器をリアルタイムに監視・制御するための信頼性の高い神経系づくりと言ってもいいかもしれません。

通信システムの探求の先にある、豊かな社会の実現を信じて。

中山様々な電力機器への導入を見込んでいるシステムなので、多様な用途の製品への導入を前提とした汎用性と信頼性の高いものを開発する必要がありました。そこで、計測対象機器との通信プロトコルとして、汎用性の高いModbus/TCPやECHONET Liteを採用しました。Modbus/TCPやECHONET Liteを携帯端末に搭載することで、様々な機器の制御や状態監視を遠隔から行えるシステム構築が可能になります。また、通信プロトコルは、対象機器により変更可能な構成としました。

矢澤また、リアルタイム性を向上させるためにQNXというOSを導入。さらにSSL/TLS通信を用いることで、サーバと携帯端末間の通信を暗号化させて、不正アクセスによるデータ改ざんや漏洩を防止することが可能になりました。また、認証キーを使用した認証をサーバ、携帯端末それぞれで行うことで不正アクセスを不可能なものとしています。

中山このように、今回の携帯通信システムを開発するために多くの要素技術を活用しています。多くの新しい要素技術を取り入れたので、システムが想定した通りには動かないことは日常茶飯事でした。なぜ動かないのかはすぐには分からない。だから動かない理由を検証して、ひとつずつ問題をクリアにする。約2年間、そういった探求の繰り返しだったように思います。

矢澤私たちの開発した通信システムは、フィールド検証において太陽光発電や風力発電などの分散型電源の監視・制御などに運用される予定になっています。これから先の検証でも、多くの課題が出てくることが予想されます。ですが、そこで得られた実証データやノウハウが未来のスマートグリッド社会や、世界の電力格差をなくす一助になることを信じて、これから先も電力インフラを支えるシステムづくりに邁進していきます。

最新の記事

ページの先頭に戻る