研究開発
Engineer Interview
技術者インタビュー

パームヤシ脂肪酸エステルを用いた
変圧器絶縁油のレトロフィリングに関する検討

2018.02.28
  • 栗原 二三夫

地球環境問題への意識が高まるなかで、重電分野で用いられる機器においても、環境対応へのニーズが高まりつつあります。たとえば、変圧器では化石資源由来である鉱物油に替わる液体絶縁媒体として、環境性能と生分解性に優れた植物由来エステル系絶縁油(以下、エステル油)を適用した変圧器の開発が進んでいます。エステル油の変圧器への適用として、新設だけでなく既設変圧器の保守・改修の際に、従来の鉱物油からエステル油へのレトロフィリングがあります。

東光高岳では、絶縁油やその関連技術に関する研究開発を行っていますが、今回はそのような研究のなかから、エステル油の一種であるパームヤシ脂肪酸エステル(以下、PFAE)を用いた変圧器のレトロフィリングに関する研究をご紹介します。

※レトロフィリング:絶縁油入替によって電気機器を改良・存続させること

Profile

  • 栗原 二三夫
    技術開発本部 技術研究所 材料技術グループ グループマネージャー

化石資源由来の鉱物油から、環境にやさしいエステル油へ。

地球温暖化、大気・土壌・水質の汚染、生物多様性の喪失などの「環境問題」に対して世界レベルで取り組みがなされていますが、重電分野でも「化石資源からの脱却」「CO2削減」が喫緊の課題としてあげられています。たとえば、変圧器の電気絶縁材料として用いられる絶縁油としては、これまで化石資源由来のいわゆる鉱物油が主流でした。しかし、最近では大豆、菜種、ひまわり、パームヤシなどを原料としたエステル油に注目が集まりつつあります。

東光高岳では独自に大豆、菜種、ひまわり、パームヤシなどを原料とした絶縁油の性能評価を横並びに実施してきました。私は絶縁油研究に20年以上携わっていますが、パームヤシを原料としたPFAEに着目したのは2007年頃のことです。数ある植物系のエステル油の中でPFAEに着目した理由は、変圧器で使うエステル油のなかでも、よりサラサラとしているという特性にあります。粘度が低いほど機器の熱を取り去って放熱させる性能が高くなります。冷却作用の大きさは、そのまま絶縁油として使い勝手の良さや変圧器性能向上につながります。他にも、「引火しにくい」「環境負荷が低い」「変圧器内の部材が劣化しにくい」といった新機軸の絶縁油にふさわしい多面的なメリットが、PFAEに認められました。

世界の重電分野では、絶縁媒体としてエステル油が既に一部で使われているのですが、日本はまだまだ開発途上。私たちの研究では変圧器の絶縁媒体にPFAEを適用した際の、前述のようなメリットが実証されていますので、その優れた特性をもつ絶縁油を日本全国の変圧器に広めたいと思っています。

二歩、三歩先を見すえ、電力ネットワークの未来を担う材料開発を推進する。

私たちは、環境性の高さや従来絶縁油にはない新たな特性に注目してエステル油の適用に関する研究開発に取り組んできました。この研究をはじめた2007年当時は、国内でもエステル油が注目されはじめた時期。明確なニーズがあったわけではなく、完全にシーズ起点ではじめた取り組みです。電気は暮らしのライフラインですから、重電業界を支える電力機器には、何よりも安全性や実績が求められます。そのため、必然的にこれまでにない新製品の開発は難易度が高いものになるんです。私たちも、当初は業界や社内においても評価を得られませんでした。

すべての研究開発は、膨大で緻密な試行錯誤の連続です。ただ求められているものをつくるのは、ある意味で簡単なのかもしれません。次の時代に必要とされるものを先読みしてつくり出すことは、仮に先行して開発に成功してからもその重要性やメリットを浸透させていくことが必要になってくるからです。そういう意味で、エステル油の適用研究を実施する間、シーズとニーズの間で長らく葛藤していました。

そういった状況を突破するために、多角的な指標でエステル油の適用メリットや有用性の検証を繰り返し行ってきました。もちろん、得られた結果を収集するだけではなく、そのメカニズムの解明にも力を入れてきました。最近では、世の中の環境問題への意識の高まりもあって、エステル油を適用したいというお客さまの声や、変電所などで使用する変圧器にPFAEを用いた絶縁油が導入されたという嬉しい報告も耳に届きはじめています。

とは言うものの、まだ国内の絶縁油の99.9%は鉱物油です。仮にですが、世の中にある特高変圧器すべての絶縁油をPFAEに入れ替えた場合に、変圧器のライフサイクルから排出されるCO2は1/50程度になるという試算があります。コスト面などの課題は残っていますが、PFAEをはじめとするエステル油の研究を続けなければいけないと考えています。

電力を取り巻く環境が様変わりするなかで、電力機器やシステムのあり方も大きくシフトしなくてはなりません。引き続き、私たち研究者全員の英知を結集して、材料技術の分野からも次世代のクリーンでスマートな電力ネットワークを実現していきたいですね。

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