研究開発
技術者インタビュー

EV用パワーコンディショナ(V2H)の開発

  • 古家 成正
  • 鈴木 健司
  • 小槌 淳

2012年、石油資源に依存しないクリーンな環境社会の実現に向けた再生エネルギーの導入促進策として、固定価格買い取り制度(FIT)が導入されました。これに伴い一般家庭での太陽光発電の普及も拡大することとなりましたが、2019年からは住宅向けのFITの買い取り期間が終了しはじめるため、太陽光発電の用途が売電から自家消費に移行すると予想されています。

発電した電力を無駄にせず、エネルギーを蓄える装置の代表例として定置型蓄電池がありますが、その他に電気自動車(EV:Electric Vehicle)やPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)もその役割を担うことができます。EVやPHVは自動車として普段活用する以外に、住宅向けの電源としても有効活用が期待される他、非常用電源としてのニーズも高まってきています。これらの流れを受けて、東光高岳は住宅内への電力供給が可能な小型のV2H(Vehicle to Home)を開発・製品化しましたので、今回はその技術についてご紹介します。

Technology

容量3kWという小型化を実現した、Smaneco V2H※1

Smaneco V2Hは、EVから一般住宅内への給電を3kWと設計しており、大部分の家電が使用できる製品となります。さらに従来のV2Hに比べて小型化を実現し、より一般住宅での家電使用に適したV2Hが誕生することとなりました。今回の製品は非連系方式※2を採用しているため、停電や災害時でもEVから家電に給電することができます。

Smaneco V2Hはコンパクトであるため、EVを活用したい住宅や停電に備え非常用電源として確保したい自治体の避難所向けの導入を想定しています。東光高岳では今後、新たなVPP※3の仕様にも対応できる連系方式のV2Hの開発も視野に進めていきます。

※1)Smart(かしこく)、Neo(新しく)、Ecology(環境にやさしい)を組み合わせたパワーエレクトロニクス製品向けのイメージキャラクタ(Smaneco(スマネコ)は東光高岳の登録商標です)
※2)電気事業者の配電系統に連系せず、単独で運転する方式。
※3)Virtual Power Plant(バーチャルパワープラント)の略。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入拡大と省エネルギー・電力負荷標準化による系統安定化コストの低減を目指し、地域に分散して存在するエネルギーリソースを遠隔制御(IoT)化するとともにリソースアグリゲーターが統合制御し、一つの発電設備のように機能させる仮想発電所のこと。

Profile

  • 古家 成正
    古家 成正
    エネルギーソリューション事業本部
    エネルギーソリューション製造部
    設計グループ(開発時)
  • 藤鈴木 健司
    鈴木 健司
    技術開発本部 技術研究所
    次世代系統技術グループ PCS担当(開発時)
  • 小槌 淳
    小槌 淳
    技術開発本部 技術研究所
    次世代系統技術グループ PCS担当(開発時)

急速充電器で培った技術から生まれた、一般家庭向け小型EVパワーコンディショナ。

古家もともと東光高岳では、エネルギーソリューション事業の一貫としてEV用の急速充電器の開発・販売・設置を行っており、2013年~2014年には補助金制度もあって売上を伸ばしてきたという背景があります。次に充電インフラやEV関連事業として何を手がけていくかを考えた時に着目したのが、このV2Hと呼ばれるEVパワーコンディショナ事業というわけです。

鈴木国内大手自動車メーカー様のEV用急速充電器のコンペに参加した際や、充電器の施工会社様とのやりとりから、世の中のV2Hへのニーズを汲み取ることができたのも、開発に踏み切った要因ですね。

小槌当時すでに製品化されているV2Hは容量が6kWと、一般家庭に置くにはすこしサイズの大きいものでした。なので、より家庭での使用に適した製品仕様にするために、「小型化」は開発当初からの私たちのコンセプトだったのです。

古家急速充電器で培ったパワーエレクトロニクスの技術は、V2Hにおいても応用できるところも多く、EVそのものへの知見もあったため、住宅内での平均的な電力消費量を鑑みて、3kWであれば給電にも支障なく小型化が図れるであろうということで、まずは製品仕様自体を決定するところから開発がはじまりました。

小槌一般的に太陽光発電の設備は、電力事業者からの配電系統に連系して発電する連系方式となります。今回は非連系方式を採用し、電力系統の影響を受けずに住宅内への給電が可能になる仕様にしたため、小型化というコンセプトを守りながら、どこまでの機能を付与していくかというのが、開発の中でも期間を費やした点でした。

鈴木市場に出ている製品よりも小型で、かつメリットは残しながらデメリットを可能な限り減らしていく。東光高岳の既存の技術で使用できるものは応用し、まったく新規で開発が必要なものは、有識者の知見を借りながら開発を進めていきました。

古家V2Hは、急速充電器にはなかった給電機能を搭載するため、双方向の電力変換が必要となります。Smaneco V2Hは、電力会社から配電される電気のEVへのDC充電と、EVから住宅内へのAC給電を行うことができるシステムとなっており、それらは手動操作で切り替えも可能ですし、スケジュール運転機能によって充電・給電を1時間単位で設定できるようにも設計されています。

災害、環境問題、再生可能エネルギー。EVとV2Hが支える、電力の未来。

鈴木今回のSmaneco V2Hがメインターゲットとしているのは、太陽光発電設備を自宅に持っているご家庭ですが、その主な運転パターンとしては2つあり、太陽光発電と併用するかしないかによって変わってきます。

小槌太陽光発電と併用する場合、発電が行われる日中はEVへの充電が行われ、太陽が沈んだ夕方以降は、EVから住宅内への給電が行われます。対して併用をしない場合ですと、夜間に安価な深夜電力をEVに充電しておき、電気料金が高くなる日中はEVから給電が行われるような仕組みで、充電と給電の切り替えがなされるようになっています。この切り替えによって、1日の中でより効率的・低コストでの電力使用が可能になるのです。

古家FITによる電力買い取り期間が2019年から順次終了し始めることを受けて電力の自家消費が必要となる中、発電した電力をその場ですぐに消費するよりも、自動車そのものをひとつの蓄電池として捉えて充電をしておくことで有効活用できるようになるのが、この装置の最大のメリットになります。

鈴木SmacecoV2Hは、さらに災害時の非常用電源として自治体などへの導入も期待されています。もちろんEVは本来の自動車としての役割がありますから、蓄電池として考えるなら非常に低コストなものですし、場合によっては「移動可能な蓄電池」と捉えることもできるので、使い方次第でその可能性はどんどん広がっていくと思います。

小槌今回EVに用いた技術を、PHVに同じように展開することは規格次第でもちろん可能です。一般家庭への導入件数が増えて知見が増えていけば、より大きな公共施設等へ給電する技術の実現も見えてくるでしょう。

古家今後は、今回の非連系タイプのV2H開発を足掛かりに、連系タイプの開発も進めていく方向になると考えています。電力事業者の配電系統に連系することで、ゆくゆくはVPPの仕様に対応できるようになり、たとえば一台のEVに貯まっている電力を社会全体の"仮想発電所"として考えることも可能になってくるかもしれません。いずれにせよ、再生可能エネルギーをめぐる技術の進歩は、環境問題と密接に関係しています。V2Hも、今でこそ一つひとつの点でしかありませんが、それらが結びついていけば、社会への大きな貢献になっていくのではないでしょうか。

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