研究開発
技術者インタビュー

電気・ガス・水道・熱量の共同検針を可能にする自動検針システムの開発

  • 奥苑 直昭
  • 渋沢 真弘

商業施設やオフィスビルなどのテナントにおいては、電気や水道などの使用料を請求するために取引用のメーターが設置されています。電気メーターは従来、円盤型のドラムが回転する誘導型電力量計が主流でした。しかし、電力自由化に伴い自動検針へのニーズが高まり、通信機能を持ったスマートメーター※1への移行が進んでいます。

メーターの計量値をサーバーなどに送信する通信方式は有線と無線に大別されます。商業施設やオフィスビルに取り付けられるメーターの設置場所は狭隘なところが多く、コンクリートなどの遮蔽物の影響で無線通信に不向きな環境があります。

メーターのスマート化と設置環境に最適なソリューションをお客さまにご提供するべく、東光高岳は、一括受電マンションやテナントビル向けに電力線搬送(以下、PLC) ※2を用いた自動検針システム(テナント検針システム)を開発しました。PLCを用いることにより、既設の配線を利用するため新規の通信線敷設が不要となり、既存のビルに対しても容易に自動検針システムを導入することが可能となります。

また、従来のスマートメーターで自動検針が可能なのは電気のみでしたが、今回開発したテナント検針システムでは、ガスや水道の共同検針も実現。さらには、熱供給を行うテナントビルの増加に対応するべく、熱量の検針も共同で実施できる機能を開発しました。既存ビルへの導入容易性、検針の自動化、各種エネルギーの共同検針など、多方面から検針業務の効率化に寄与する新たな技術をご紹介します。

※1)通信機能などを有する高性能な計量機器。
※2)Power Line Communicationの略語。電力線に通信用の信号を重畳させることで通信を行う方式。

Technology

PLCを利用したテナントビル向け自動検針システムの開発。

テナントビルオーナーにとって、検針業務は非常に時間のかかる作業でした。その要因は大きく分けて2つあります。手作業による検針が必要であることと、各種エネルギーごとにメーターが分かれていることです。検針の自動化については、電気のスマートメーターは流通していますが、他の検針機器は自動検針には対応していません。その上、スマートメーターの導入には通信線の敷設が必要であり、既存のテナントビルへの導入は難易度が高いという問題がありました。

東光高岳は、これらの問題を同時に解決できるテナント検針システムの開発に成功しました。PLCを用いることで、新規通信線の敷設が難しい既存テナントビルへも容易に導入が可能となりました。各種エネルギーの検針を共同で、かつ自動で行えるようになっただけでなく、30分ごとに使用量をオンラインで確認できるようになりました。一括受電マンションをはじめ、テナントビルや商業施設への導入も推進することで、さらに多様なニーズへの対応が可能です。

Profile

  • 奥苑 直昭
    奥苑 直昭
    エネルギーソリューション事業本部
    システムソリューション製造部
    開発グループ マネージャー
    (開発時)
  • 渋沢 真弘
    渋沢 真弘
    エネルギーソリューション事業本部
    システムソリューション製造部
    開発グループ

PLC、ネット接続、各種検針の一括化で多くのメリットを実現。

奥苑電力自由化が進むにつれて電力会社やプラン選択の自由度が高まり、電力使用量を見える化できるスマートメーターへのニーズが高まっています。また、検針を行う側にとっても、通信機能を有することで遠隔での計測ができるため、検針業務の時間が格段に削減できます。作業が楽になるだけでなく、自動検針を導入することで人為的なミスがなくなり、コストも削減できます。こうしたニーズに応える製品を創ろうというのが、プロジェクトの発端です。

渋沢この検針システムの最大のメリットは、データ収集装置がインターネットを介してクラウドサーバなどにデータを送信することで、自動検針サービスを提供できることです。しかし、電気に関していえば、すでに他社のスマートメーターでも自動検針が可能となっています。今回私たちが開発したシステムならではのメリットは、電気・ガス・水道・熱量のすべてを一括で検針でき、なおかつPLCを用いることで新規の通信線を敷設する必要がないという点にあります。

奥苑特に既存のテナントビルへの導入において、新規通信線の敷設は大きな問題となります。配管内には電話線をはじめ、あらゆる配線が詰め込まれており、新たに線を通すことが物理的に難しいことが多いのです。また、PLCのメリットとして、既存ビルへの導入が容易なだけでなく、設置作業自体が容易であるという点も挙げられます。かりに、新規で通信線を敷設できる場合でも、ネジの締め方一つで上手く配線が繋がらない可能性があります。一方、PLCの場合は既設されている電力線を使用するため、通信線の配線に不慣れな業者でも問題なく作業を行うことが可能となります。

渋沢使用量の見える化という観点でも、電気に限らず各種エネルギーの使用量が30分ごとにオンラインで確認できるため、より細かな省エネが可能となります。また、遠方に居住されているご家族の使用量も容易に見ることができ、このシステムを通じて安否や生活のようすも確認できます。

奥苑インターネット接続、各種エネルギーの検針一括化、PLCの採用。これらをすべて搭載することで、居住者やビル・テナントオーナーへのサービス拡充、そして通信線の配線工事の削減などお客さまニーズに応えるソリューションが今回開発したテナント検針システムなのです。

左:STiNC は、株式会社東光高岳の登録商標(第5360609号)。 右:SmaMe は、東光東芝メーターシステムズ株式会社の登録商標(第5542012号)。

次なる課題は、収集したビッグデータをいかに活用していくか。

渋沢自動検針のためのインターネット接続や、PLCに関する技術は社内で持っていました。問題だったのは、各種検針の一括化です。各種メーターの検針機能を一つのモデムに統合するのにはかなり苦労しました。

奥苑自動検針システムでは、検針データを集めるコンセントレーターが、スマートメーターに内蔵しているモデムを通して、各種メーターと通信を行い、検針値を取得しています。ところが、電気やガス、水道、熱量それぞれのメーターによって通信仕様が異なるのです。簡単にいえば、それぞれに使用する言語が違うということ。それらをすべて同じ言語に翻訳した上で、コンセントレーターに伝えなければいけない。この機能の実装が難しく、かなり苦戦しました。

渋沢統合が難航した理由は、通信仕様の変換技術だけではありません。すべての機能をモデムの筐体に収めるという物理的な問題がありました。モデムの筐体が大きくなれば、スマートメーターの中に格納できなくなる。スマートメーター自体を大きくしては、設置できる場所に制限が生まれてしまいます。コンパクトな筐体の中にいかにしてすべての機能を詰め込むか。モデム内部の一つひとつの機器を極限までダウンサイズするとともに、精巧なパズルのように配置も考え抜くことで、ようやく実現させることができました。

奥苑東光高岳の検針システムだけが持つ、各種検針の一括化という機能は、こうした努力の末に生まれたものです。しかし、この技術もすぐに他社に追いつかれるはずです。だから、私たちが見据えているのは技術開発のその先。この技術を活用して、どんなソリューションが提案できるのか。それこそが本当の開発ターゲットであると考えています。

渋沢インターネット回線を利用して検針データをクラウドサーバに蓄積し、この検針データファイルを協業先のデベロッパーに提供するサービスも指向しています。他にも、当社のソリューション営業部内にあるエネルギーコンサルグループと連携することで、お客さまの検針データを分析して各種設備やその使用方法についてのコンサルティングを行うことも可能だと考えています。

奥苑今挙げたものは、あくまで一例にすぎません。このシステムが導入されれば、各種エネルギーに関するビッグデータが日々蓄積されていきます。このビッグデータを活用して、他社に先駆けた提案やサービスを実現したとき、東光高岳も日本のエネルギー技術も、一歩高みへ近づくはずです。

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