研究開発
Engineer Interview
技術者インタビュー

断路器の耐震性向上に向けた
地震被害メカニズムの解明

2020.01.10
  • 大山 友幸
  • 神田 一彦
  • 永田 清志

地震大国である日本においては、電力機器に高い耐震性が求められます。近年、東北地方太平洋沖地震や熊本地震において変電機器の耐震設計規定を大きく上回る、観測史上最大規模の地震動が立て続けに観測されました。電力インフラを担う変電所などの電力機器の地震による損壊は、電力系統に大きな影響を及ぼすため、耐震設計の見直し、さらなる耐震性能の向上が検討されています。

実際に、東北地方太平洋沖地震では断路器※1が甚大な被害を受けました。そこで、東光高岳は同地震による断路器損壊のメカニズムを解明するため、さまざまな検証実験および耐震解析を実施し、断路器の耐震性能を大幅に向上させ国内外で観測された巨大地震にも耐えることができるダンパーの開発に成功しました。今後の大規模な地震から断路器を守り、安定的な電力供給に貢献する新たな技術についてご紹介します。

※1)高電圧の電気回路に使われるスイッチ。

Profile

  • 大山 友幸
    電力プラント事業本部
    断路器製造部
    設計グループ
    主任
  • 神田 一彦
    技術開発本部
    技術研究所
    解析・試験技術グループ
    副課長
  • 永田 清志
    電力プラント事業本部
    断路器製造部
    設計グループ
    開閉器技術課長

福島で観測された地震波で実験すると、驚くべき結果が。

永田2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震により断路器も損壊してしまったのです。ここからすべてが始まります。当時、私は栃木の事務所で勤務中でしたが、あまりの規模の大きさに現地の断路器の破損は免れないだろうと覚悟しました。結果、変電機器の耐震設計規定を大きく上回る巨大地震だったこともあり、耐震性能の高い東京電力様の550kV断路器においても、被害数・被害様相の実態は想像をはるかに上回るものでした。これはなんとかしなければというところから、耐震性向上プロジェクトが走り出しました。

神田 これまで、550kV 断路器には耐震性向上策としてがいし装置に免震装置である可動部を付加してあったのですが、3.11の地震はその免震装置の想定を上回る巨大地震であったため、甚大な被害が出てしまったのです。

永田震災直後、当社の断路器を納品していた東京電力様から対応策の提案を求められたのですが、当初は単純に「高強度がいしの適用や、がいしを太くすることで強度を上げましょう」という提案を持っていったのです。ところが、当時の東京電力様の技術チームより「きちんと原因を究明した上で、本質的な耐震策を探求していきましょう」と言われたのです。

大山まさにおっしゃるとおりで、返す言葉もありませんでした。もし、私たちの提案どおりに対策を施すとなれば、すべてのがいしを総取替する必要があり、コストも膨大になる。それは適切な対策ではありませんでした。そこでもう一度、損壊部位と損壊メカニズムを解明することから始めたのです。早速、現地の損壊したがいしや免震装置を回収して調べたところ、免震装置の部品どうしが激しく衝突した痕跡がはっきりと認められたのです。そこで免震装置の部品どうしが激しくぶつかった衝撃によりがいしが損壊したのではないかという仮説を立てました。

神田それまでの知見では、採用されていた免震装置は日本の地盤における地震動には共振しないという認識でしたが、免震装置の部品どうしが衝突した痕跡がはっきりと確認できたのです。しかし、その構造上可動範囲も小さくがいしが破損に至る程の衝撃力が生まれるようには思えなかった。想定以上の地震動であったとはいえ、「本当に衝撃力が発生したのか?」、「その衝撃力は、がいしを一瞬で破壊するほどのものだったのか?」半信半疑のまま、コンピュータシミュレーションと、損壊現象を再現する実験を行いました。

神田耐震解析結果はもとより、実験結果も驚くべきものでした。実際に観測された地震波で再現実験をしたところ、やはり実際に衝撃で壊れたのです。地震による揺れそのものがとても大きかったので、免震装置の部品どうしが激しく衝突してがいしが破損する模様が実験で再現されたのです。

大山そこからは、断路器が地震にどんな応答を示すのか、どの程度大きな衝撃が加わったら壊れるのか、詳細な損壊原因の究明作業を進めました。東京電力様から当該の地震波形データをいただき、解析モデルの精緻化を繰り返しながらシミュレーションを重ね、半年以上の時間をかけた末にようやく原因究明に至りました。

製品化を目指して、さらなる耐震性と利便性の向上を。

永田衝突現象のシミュレーションに成功し、実験を行って衝撃力の見当をつけるところまでは漕ぎ着けました。次に向き合ったのは、その衝撃力を抑えるためにどうすればいいかという課題です。最終的には、輪ばねを利用したフリクションダンパーを開発し、それを既設器に取り付けるという形に辿り着きましたが、それまでの道のりは平たんなものではありませんでした。

神田耐震解析を行うためにはまず解析モデルを作成する必要があります。モデルを組み立てること自体は、それほど難しいことではないのですが、実際の挙動と同じ動きをするように微調整を繰り返しながら、精緻に解析モデルを作り上げていく作業がとても難しいのです。このモデルの正確性・精緻性によって、以降の検証作業の精度が大きく左右されるため、解析モデルの精緻化には特に注力しました。

永田その甲斐あって、変電機器の耐震技術においては国内最高レベルといえるほど、きわめて再現性の高い解析モデルを作成することができました。今では国内にとどまらず、海外においても耐震性向上に関する提言を行なっていますが、その提言の説得力を担保してくれているのは、豊富な実験の実績と、精緻に作り上げたこの解析モデルなのです。

大山解析モデルの精緻化だけでなく、モデルに投入するデータにも万全を期すため、日本全国の電力会社様および研究機関と連携しながらデータ収集を進めました。また、新たな耐震装置が開発できても既設器に搭載できなければ意味がないため、既設器内の設置可能なスペースに収まるよう意識しながら、さまざまな種類のばねを試しました。

永田既設器に搭載できるかという点は、非常に重要なポイントでした。日本では、今後550kV級の変電所が新設されることは考えにくく、既設の550kV 断路器を全体更新することは少ないのです。既設器に搭載できなければ、せっかく開発した技術も実用化される術がなくなってしまうので、常に実用化を意識しながら開発を進めました。

大山こうして東京電力様向けのフリクションダンパーを完成させることができました。しかし、道はまだ半ば。今後も、同装置のさらなる性能向上と、実用化に向けた取り付けの容易性なども考慮してブラッシュアップしていきたいと思っています。

神田東北地方太平洋沖地震対策以降、他にも新たに研究の成果が出ています。それが熊本地震。同地震でも断路器の損壊が起きましたが、これまでの研究で培った耐震解析技術の知見を活かし、解析モデルで耐震強度の低い振動方向を特定しました。そして、弱点部の発生応力を吸収する対策を導き出すことができました。こうした事例のように今回の研究開発で得られた知見を活かして、お客さまニーズにお応えしていきたいと思っています。

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