研究開発
技術者インタビュー

変圧器巻線の油浸要素モデルによる雷インパルス絶縁特性の評価方法の検討

  • 吉村 智萌
  • 酒井 崇行

当社の製品開発は、事業ロードマップに沿って行われます。このロードマップには、製品開発に関連する技術開発についても併記されており、製品開発に必要な各種技術が抽出されています。新たな技術開発案件のなかで最も根幹となる要素技術の開発が私たちのグループで行うような基礎研究となります。

油入変圧器の要素技術において、私たちは現在、絶縁特性について研究しています。例えば、変圧器は落雷にも耐える設計をする必要があります。そのためには、落雷を受けた際に変圧器内部の電圧を把握する技術、抑制する技術、その電圧に耐える技術などが必要となります。これらの絶縁技術に関し、実験や解析を組み合わせた各種研究を実施し、その成果を変圧器の信頼性向上につなげています。変圧器の研究は社内だけではなく、社外の有識者も含めて意見を集める取り組みをしており、幅広い知識ネットワークの中で進めています。このような研究体制により高い信頼性を維持しつつ、設計部門から求められる製品のコストダウンやコンパクト化といったニーズに応えるために絶縁特性の合理化に取り組んでいます。私たちのこの取り組みをご紹介します。

Technology

絶縁特性を考察し、絶縁設計のさらなる合理化に貢献する雷インパルスを用いた要素モデル試験

電力を発電所から各家庭まで届ける際、送電線などの電気抵抗により、電気の一部が熱となってロスが発生してしまいます。このロスを抑えて送電するためにはなるべく高い電圧であることが望ましく、一方で、電気を使う工場や一般家庭では、扱いやすい低い電圧である必要があります。変圧器は、電力を発電所から各家庭まで届ける際、適切な電圧に変換するために使われています。電力の送電に使用される変圧器は、想定される自然災害で故障するわけにはいかず、落雷などの高電圧に耐えられるように設計します。万一、落雷などで変圧器が故障してしまうと、電気を使用する工場やビル、各家庭などの停電につながってしまうためです。

油入変圧器の中身は、鉄心と2つ以上の巻線を組み合わせた変圧器本体と絶縁強度および冷却効果を高めるための絶縁油が、タンク内に収納された構成になっています。その中でも、変圧器の心臓部である巻線は、絶縁物である紙と絶縁油を組み合わせた複合的な構造で絶縁を実現しています。先ほどの落雷により、この巻線の電線と電線の間に大きな電圧が発生します。この大きな電圧によって絶縁が破壊してしまうと故障に至ります。そのため、この絶縁こそが変圧器で最も重要な要素技術となってきます。我々の研究では、この絶縁に関し、各部の絶縁要素モデルを製作し、そのモデルに雷インパルス試験と呼ばれる雷を模擬した高い電圧を印加した試験を実施しています。この試験により絶縁破壊特性などを取得するとともに、理論式および電界解析と組み合わせた絶縁特性の考察を行っています。本研究の成果を製品設計に反映し、絶縁性能を維持、向上しつつ、機器のコストダウンやコンパクト化につなげていく取り組みをしています。

Profile

  • 吉村 智萌
    吉村 智萌
    技術開発本部
    技術研究所
    解析・試験技術グループ
  • 酒井 崇行
    酒井 崇行
    技術開発本部
    技術研究所
    解析・試験技術グループ

試験の結果を製品のコストダウンに活かす

吉村入社は2011年です。入社してから2014年まで変圧器の設計に携わっていました。その後、解析・試験技術グループに異動となり、油入変圧器の基礎研究に取り組んでいます。

酒井私は2017年入社で、入社当時から解析・試験技術グループで油入変圧器の研究に携わっています。

吉村変圧器は昔からほぼ形が変わらない製品ですが、材料や製造方法、工場での品質管理は時代とともに変わってきています。過去の試験データや検証内容をそのまま使用できない場合がありますので、改めて変圧器の基礎研究に取り組み、現在は主に絶縁についての試験や検証を進めています。

酒井私たちは変圧器の内部で重要な役割を果たしている巻線の絶縁特性を考察するべく、巻線の各部位を模擬した要素モデルに落雷を模擬した高電圧を印加して試験を実施しています。

吉村研究では、まったく新しいデータを取得するだけではなく、過去の試験データと比較しつつ、さらなるデータの蓄積をすることで、より精度の高いデータにしています。その上で、コンピュータシミュレーションを活用した解析を取り入れることでより合理的な評価を目指しています。試験を通して得た絶縁特性を解析評価できることで、材料特性や製造技術の向上を踏まえて適切な許容値に見直すなど、製品のコストダウンやコンパクト化へ貢献しています。

酒井実際の大きさの変圧器を試験に使用するために製作すると、コストと期間がかかるため、数多くのデータを取得する必要があるときは、扱いが容易な小さい要素モデルを製作して試験に使用しています。この研究は吉村と二人で行っていますが、製造現場の人にも協力してもらうとともに、検証の段階で不明点が出てきたときは、大学教授など有識者のご意見を取り入れて進めています。大学で3年間教えていただいた教授は、変圧器や電気絶縁について精通しているため、卒業後も産学連携の取り組みを通じて、多くのアドバイスをいただいています。社外の有識者に私たちの考え方が正しいか確認していただき、知見をフィードバックして研究に反映させることができており、これが大きな効果となっています。

吉村想定していた試験結果が得られなかったときは、試験の条件自体に何かエラーがあったのではないかといったことも含めて見直します。温度など環境面を含め、色々なアプローチを試しながら検証しています。

研究を通して変圧器のより深部へ触れる面白み

吉村今まで分からなかった現象について研究を通して知れることが、研究における大きな魅力です。私も最初は設計部門で決められた基準の中で最適な設計を追及していましたが、研究にかかわるようになってから、変圧器に関連する現象でなぜそのような現象が起こるのかを考えるようになり、以前とは視点が変わってきました。研究部門に所属してから、変圧器の分野についてさらに踏み込んで考えるようになり、日々さまざまな発見があるのでやりがいを感じています。これからも研究によってより深くまで解き明かし、製品をより良くしていこうという気持ちで仕事に取り組んでいきます。また、現在は設計部門からの要望を研究テーマに掲げていますが、研究に携わる中で新しい課題が見つかれば次回以降のテーマとして研究していきたいと思っています。

酒井入社してから一貫してこの研究に携わっていますので、現段階では私が当社で取り組んだ仕事のすべてがこの研究です。以前設計にも携わっていた吉村と比べれば、変圧器のコアな部分になると分からないこともあります。しかし、基礎研究の成果を反映して、機器の設計技術基準を定期的に見直している中で異なる視点ややり方を取り入れ、現状を否定し、既存のものを変えていくといったチャレンジができることに魅力を感じています。技術の追求や品質の向上には終わりがないと思います。変圧器の構造や現象についてしっかり勉強し、製品のコストダウンやコンパクト化を実現するための研究を続けていきます。

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