発電所用自立形ガス絶縁計器用変圧器
屋外用分割形変流器のラインアップ拡充
- 村上 政倫
- 小林 晃一

電力会社において2020年4月より「発送電分離」が実施されています。従来は電気を作る「発電部門」と、電気を需要家に送る「送配電部門」、そして電気料金のプランを作り販売や契約手続きをする「小売り部門」のすべてを電力会社は担って来ました。このうち送配電部門を切り離して分社化したことを「発送電分離」といいます。2016年から電力の自由化が進み一般家庭向けの電力小売りが自由化され、基本的に誰でも電気を発電したり、販売したりできるようになりましたが、送配電網を作り電気を家庭に届ける送配電の運営と管理は容易ではありませんし、ひとつの企業が一元的に行うのが効率的でもあります。そのため送配電網は、従来どおり各地域の電力会社が担っており、新規参入の小売電気事業者は、この送配電網を利用して電気を販売しています。
ここで重要なのは、送配電部門が公平性を保っていることで、自由な電力市場を維持するためには、特定の新規電力会社がコストや各対応の優先度において有利になったりしないようにする必要があります。そのために送配電を担う会社には電力取引用の計量器の設置が義務付けられており、東光高岳では、電力市場の変化に対応するためにさまざまな計量器の製品化を実現しています。
Technology
屋外の限定されたスペースに設置できる「接地形計器用変圧器」と送電用のケーブルに直接設置できる「分割形変流器」の開発。
電気料金はお客さまが使用した電力量を元に算出しますが、高電圧や大電流のままでは計量することが困難なため、電力取引用の計量器が必要となります。電力の自由化に伴い、発電部門は本計量器の設置が必要となりましたが、設置スペースの問題が発生しました。
電気の測定を行う機器は、一般の人には想像もできないくらいとても大きなものです。10万Vを超える電圧を計測するため、まずは計器用変圧器という電圧を下げる機器を用いて、計測器で取り扱える電圧に下げて、その後に計測器で測るといった段階を踏みます。この計器用変圧器がとても大きなものなのです。このため、東光高岳は限られたスペースに設置できるような形に設計した、地上にそのまま設置できる「接地形計器用変圧器」を開発しました。そして、特に従来の製品ラインナップになかった11万~27万5千Vの電圧に対応する機器を増やしました。絶縁体としてSF6(六フッ化硫黄)ガスが使われているため、総じて「SF6ガス絶縁設置形計器用変圧器」と呼ばれています。
また、送電用のケーブルに直接設置できるエポキシ樹脂で絶縁した「分割形変流器」も開発しました。これもケーブルを流れる大電流を計測器で扱えるように小電流に変えるためのもので、発送電分離に伴って必要となったものです。2分割の構造のため、ケーブルを切断して取り付ける必要がなく、設置コストと設備改修の負担を軽減することができるのが大きなメリットです。現在、より太いケーブルに対応する製品も開発されております。

Profile
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村上 政倫計量事業本部
油・ガス変成器製造部
設計グループ
副課⾧ -
小林 晃一計量事業本部
モールド変成器製造部
設計グループ
副課⾧
発電設備の限られたスペースに組みこむ計量器として自立型ガス絶縁計器用変圧器を提案。
村上もともと、当社は50万ボルトまでのガス絶縁開閉装置用のガス絶縁形接地形計器用変圧器を作っていました。その技術をベースに、既存設備に単独で追加設置でき、省スペースなものというニーズに応えるために碍子(がいし=電線とそれを支える支柱などとの間を絶縁する器具)を上部に向かって積み重ね、タワー型の形状に設計しました。計器用変圧器の碍子部は3.5mになりますので、計器用変圧器の本体部を加えると全体で5mくらいのものになりました。高電圧の絶縁のためにはどうしても長い碍子部が必要です。今回、特に計量用として新たに開発した精度の高い計器用変圧器を組み込んでいます。
従来、東光高岳では、こうした単独設置型のガス絶縁計器用変圧器を収めた実績はなかったのですが、11万~27万5千Vの計器用変圧器を開発したことにより、製品ラインナップが増えました。固体、液体、気体の絶縁体を使って低圧から超高圧レベルまで製品ラインナップがあるというのは当社の強みだと思います。今後はお客さまの要望に応えつつ、最適な納入形態を提案して開発を行っていきたいと考えています。
2023年あたりまでにすべての発電所に計測装置を取り付ける義務があり、それまではお客さまのニーズに応じた開発が続きます。そして、その後には、計測器の精度を保つための定期的な更新が始まりますので、機器はできるだけ容易に取り付けと取り外しができるように設計しています。
村上は、大学では機械や材料を学び、さらに設計に興味を持ち2007年に入社。いまは、自分が設計した機器が実際にお客さまの設備として使われているようすを見て、実感とやりがいを得ているといいます。 そして、村上は低炭素社会に向けても考えていることがあります。それは、製品をなるべく小さく作って、製造における低炭素化に少しでも貢献することです。また、環境にやさしい絶縁体を用いるなどの配慮も考えているそうです。

既存の製品を計量法に基づいて再開発
さらに高精度に、大電流ケーブルにも対応。
小林屋外型の分割形変流器は、東光高岳のラインナップとしては発送電分離が行われる以前からあったものです。ただ、それは保護回路用のもので、短絡電流のように大きな電流が流れたときに、それを検出するための機器としてあったのです。それを発送電分離に伴って計量用として使えるように精度を高めて、さらに国が定めた計量法で決まっている基準に基づいて検定を受けられるように設計を見直しました。
家庭ではメータひとつで電力量を計れますが、変電所で扱っているような高電圧になると、メータで直接計ろうとしても壊れてしまいます。そのため、測定できるレベルまで変換するのですが、その変換の比率の精度が悪いと測定値が大きく変わってしまうことから、変換の精度が高い機器を作っています。
そして、今回は従来の分割形変流器では対応できない太いケーブルにも対応するために、さらにサイズの大きなものを新しく開発しました。本来、変流器の取り付けはケーブルをいったん切断してから接続しないといけないのですが、この分割形変流器ですと既設のケーブルに後から取り付けることができます。そこが作業効率やコストの面で大きなメリットです。
苦労したことも多くありました。現地で取り付ける際に工場で計った精度がそのとおり再現されるかどうかがいちばん重要なところで、分割された本体を現地で組み合わせたときに、少しでもずれたりすると精度が変わってしまいます。そのため、誰が組み合わせてもずれが最小になるように設計しています。そして、取り付け後に「封印カバー」で分解できないような構造にして、不正にいじれないようにします。そして決められた期間、そのままの状態で稼働させます。万が一、「封印カバー」を開けてしまうと計量器としては使えないことになっています。これが無事封印された瞬間は、ホッとしますね。 また、この製品は不燃化に寄与している点が特長です。絶縁体には固体、液体、気体があるのですが、今回の製品は固体絶縁で不燃性のエポキシ樹脂を採用しています。
小林は、大学時代に電気科で電力システム工学を学びました。社会を支える重要な仕事をしてみたいという気持ちで東光高岳に入社。いまでは、分割形変流器の取り付けの作業指導をしているときに、その「インフラを支えている」という実感を得るのだそうです。将来の夢は、設計における脱炭素化を実現すること。試作器をたくさん作って検証していく従来の方法だと、試作段階で多くのCO2が発生することになります。これを抑えるために試作をコンピューターによるシミュレーションに置き換え、試作器を減らす取り組みを行っています。
重要な社会インフラである電気を支える仕事。そんなインフラをしっかりと守り続けるために、試行錯誤を続ける日々。そして未来へ向けて低炭素化社会への課題もクリアしながら、2人の技術者は今日もやりがいを感じながら仕事に励んでいます。

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