受変電設備の保守保全に貢献するPDキャッチモニタの開発
- 宮﨑 未知果
- 藤野 守也
- 小宮 英明
- 髙野 裕基
日本は世界のさまざまな国と比較しても、非常に停電の少ない国です。昭和60年あたりから1軒あたりの年間停電回数は1回を切るようになり、平成26年には0.16回/年という少なさを記録しました。同時期の諸外国と比較してみると、ドイツで0.5回/年、フランスで0.9回/年、イギリスで0.61回/年※となっています。気象状況や災害の発生など、国ごとに条件の差はありますが、それでもかなり少ないことが分かります。
※2014年度、電気事業連合会調べ
日本は停電が少ないだけでなく、周波数や電圧の変動が小さく、安定した電力供給ができる点でも優れていると言えます。安定性は機械工業やエレクトロニクス分野の産業を支えるうえでも非常に大事で、使用する機器の精度や性能を最大限に高めることにも役立っています。
このような安定した日本の電力インフラは、多岐に張り巡らされた送電線のルートや高性能な電力機器、事故の発生を未然に防ぐ技術によって支えられています。その中でも、今回は事故の発生を未然に防ぐ技術開発についてご紹介します。
Technology
変電所の設備は、古くなるにつれて故障のリスクが高まります。これをそのまま放置すると、大きな事故につながりかねません。変電所の事故により送電が停止すれば地域社会に大きな影響を与えることになります。
例えば、信号機が停止し事故や渋滞の発生や、工場の生産停止、一般家庭の停電など重大な問題に発展します。そのため、変電所の設備は専門技術者により点検が行われてきました。
しかし、変電所に人が出向いて行う検査は実施できる回数に制限があり、前回の点検では問題がなかったのに、次の点検では重大な問題が発生する寸前だったということも想定できます。
これらの問題のうち、点検回数の制限や人的コストといった問題を解決するために開発されたのが「部分放電診断装置(PDキャッチモニタ)」です。その大きさは18×18センチ、1.2kgのコンパクトな装置で、センサは変圧器などの測定対象に磁石で取り付け、本体は盤内に取り付けます。
この装置によって、24時間365日、休むことなく常時監視が可能に。専門技術者が現地に行って定期的に点検する必要がないので人的なコストも抑えられます。
Profile
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宮﨑 未知果技術開発本部
技術研究所
ICT技術グループ -
藤野 守也技術開発本部
技術研究所
ICT技術グループ
主任 -
小宮 英明技術開発本部
技術研究所
ICT技術グループ
主任 -
髙野 裕基技術開発本部
技術研究所
ICT技術グループ
24時間365日、遠隔地から監視できる
部分放電診断装置
小宮変電所の設備の一つである変圧器は内部の絶縁体が劣化することで、地絡事故という、地面に電気が流れて停電に至ったり、火災、感電につながる事故に発展したりすることがあります。そのため定期的な点検が必要です。この絶縁体の劣化診断は、従来、専門技術者が現地に測定器を持参して、半年に一回ほどの頻度で点検を行ってきました。この時、検査には「AEセンサ」という超音波を捉えて診断する方式の装置を使いますが、この装置ですと装置自体が高価なうえに、超音波を増幅するアンプが必要になり、さらにコストがかさみます。そこで、今回の検査装置では「面電流センサ」というセンサを採用しました。
宮﨑変圧器の絶縁体に問題があると、部分放電と呼ばれる局所的な放電が発生します。放電が発生すると変圧器表面に電磁波が生じるのですが、これを電気信号に変換する機能を持つのが面電流センサです。面電流センサは、AEセンサよりも構造が単純なため安価で、アンプも不要になるため、装置自体のコストが大幅に安くなります。何度も実験を重ねましたが検出感度も良好で、AEセンサを使用した場合と同等、もしくはそれ以上の結果も得ています。
藤野PDキャッチモニタは面電流センサから得られる電気信号を常時監視します。この電気信号の波形を分析し、部分放電を検出した場合に警報を出すことができます。センサ断線や電源断、装置自体の異常発生時も警報を出すことができますので、これらの異常についても迅速に対応することができます。
髙野装置にはUSBポートを有しているので、現地で異常発生前後のログを取得して詳細に異常を分析することや、各種設定値の設定変更をすることが可能となります。また、装置のLEDランプでも異常を示すことができるため、これまで点検に必要とされていた専門スキルが不要になり、省人化にもつながります。
手探りでの開発
一歩一歩着実に歩みを進めた
それぞれの役割分担について教えてください。
髙野機器を動かしたり、情報を処理したりするためのソフトウェア設計を担当しました。
藤野・宮﨑機器の回路や筐体などのハードウェア設計を行いました。
小宮ハードウェア設計を行いつつ、リーダーとしてチームの取りまとめを行いました。
小宮当社で面電流センサを使用した製品はなく、知見のない状態から開発がスタートしました。面電流センサの実機を使い、絶縁油で満たした模擬タンクに電圧をかけて部分放電を発生させる課電試験と呼ばれる試験を実施したり、実際に稼働している変電所でのデータを収集したりすることを通して、部分放電が生じた際にどのような波形が得られるのかを調査しました。これらの調査は現場で手を動かさなくてはできないものだったので苦労もありましたが、ここで得られたデータは開発のための大きな足掛かりとなりました。
藤野ハードウェアの設計においても、面電流センサの周波数特性やセンサ感度などの電気的な仕様を理解しておく必要がありました。初めて開発するものだったため、動作原理も不明な点が多く、特性を把握する試験をする際には、論文等を参考に自分たちで特殊な治具を設計製作して臨みました。面電流センサの開発に携わる大学にも協力してもらい、設計の構成を決定することができました。
宮﨑チームが編成され、開発が開始したとき私は入社二年目でした。担当となったアナログ回路の設計はそれまで学んできた分野とは異なり、また、当初はチームメンバーとも接点が少なかったため不安もありましたね。それまではアナログ回路を読んだこともなかったので、信号処理の流れや波形がどうなるのか理解するのに非常に苦労しました。また、面電流センサを使った現地調査では、取得した波形データをオシロスコープで確認する作業を担当したのですが、適切なサンプリング速度や入力電圧レンジが事前に分からず、解析してみたらうまくデータが取れていなかった、といったような失敗もあり、開発の難しさを実感しました。
藤野他部門とのコミュニケーションをとりながらお客さまの要望を理解し、その要望をきちんと取り入れて製品化していこうと前向きに取り組んでいる様子がよくみられましたね。
宮﨑チームでは積極的なコミュニケーションが盛んで、定例会議の外でも議論や情報共有を行う機会が多くありました。最初はほとんど何もわからないまま打合せに参加していましたが、気軽に質問したりアイデアを提案したりできる環境の中で実際に手を動かしながら多くのことを学び、開発に取り組むことができました。
安心・安全な未来へ向けて
開発は続いていく
宮﨑現在、EV車の増加やICTインフラの活用が盛んになっている状況があり、電力需要はますます増加していくことが予想されます。一方でそれを管理する人材は不足していく一方だと思いますので、できるだけ設備の監視業務を省力化していく必要があります。そうした中で、運用を省力化できるデジタル変電所が増えているわけですが、そのような新時代の環境に対応する検査・診断システムを開発し、安心・安全を支えていきたいです。
藤野PDキャッチモニタは変電所への設置が進められ、順次試験運用がなされますが、まだ開発は終わっていません。試験運用をしていく中で得られるデータは今後の改善に資するものだと考えています。ここで得られたデータを設計に反映することが重要であると考えます。
小宮今回の製品は、油絶縁方式の変電設備に特化したものですが、今後そのほかの絶縁方式にも対応していきたいと考えています。また、より詳細な遠隔監視が可能なデジタル変電所向けの新製品開発にも力を入れて行く予定です。
終わりに~重要な社会インフラを支えるための真摯な取り組み~
環境問題が深刻化し、カーボンニュートラルな時代への変革が求められる中、電力エネルギーの需要は高まりつつあります。今日も東光高岳の4人の技術者は、私たちの日常が変わることがないよう、重要な社会インフラである電力の安定供給を支えるために真摯に取り組んでいます。
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