電力の安定供給を支える解析技術PowerFactory
- 佐藤 恵一
- 森 佑介
- 山下 裕輔

日本国内では2016年に電力の小売事業が全面自由化されました。小売事業者は、電力を販売するだけでなく、お客様が電気を安定的に使用できるように電力系統(発電所からお客様へ電気を届けるまでの電力網)の需要と供給のバランス管理が求められます。また、2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みから再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が進み、需給バランスを保つことは一層難しくなっており、電力系統に流れる電気を把握するために「見える化」するニーズが高まっています。そこで利用されるのが、電力系統解析ソフトウェアです。
電力系統解析ソフトウェアは、電力系統の事故時の様相に加え、電力の需要と供給の変動や電源構成の変化による電力系統への影響を解析することで予測でき、電力系統の運用に役立てられます。
東光高岳は、ドイツのDIgSILENT(ディグサイレント)社が開発・提供している電力系統解析ソフトウェアPowerFactoryの国内総代理店として販売・コンサルティングを行い、再エネの有効活用や電力の安定供給に貢献しています。
Technology
電気の「見える化」に対応 電力系統解析ソフトウェアPowerFactory
PowerFactoryは、どのユーザーにも必須となる基本機能に、ユーザーごとにニーズの異なるオプション機能を追加することが可能です(※)。ドイツのDIgSILENT社によって開発された本ソフトウェアは、電力の安定供給に寄与するべく世界各国で広く導入されています。
例えば、基本機能にある潮流解析や短絡解析のみならず、電力系統の事故を想定した安定度解析や瞬時値解析の他、数値分析などの豊富なオプション機能があるために、再エネ導入時の検討にも役立ちます。
特に、再エネの先進である欧州の課題を解決してきた実績による豊富な技術資料の展開や、電力系統の状態を「見える化」する機能、問合せ対応など、PowerFactoryにはユーザーを支援する要素が充実しています。
※基本機能やオプションの詳細については、こちらをご覧ください。

Profile
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佐藤 恵一GXソリューション事業本部
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森 佑介戦略技術研究所 技術開発センター
解析・試験技術グループ -
山下 裕輔GXソリューション事業本部
事業開発推進室
グリッドイノベーション推進グループ
海外実績豊富な系統解析ツール 我が国への展開
佐藤私が所属するGXソリューション事業本部のミッションは、新規事業を開発することです。2021年度から商材としてPowerFactoryを扱いはじめ、その中で私は営業と技術の両面で全体統括を行っています。
森私は戦略技術研究所に所属し、コンピューターを使った様々なシミュレーション 技術の開発に携わっています。その一つとして電力系統の解析に取り組んでおり、2021年度からPowerFactoryを使った電力系統解析を習得しています。
山下私はGXソリューション事業本部事業開発推進室の所属です。電力系統の配電線における分散型電源制御・電圧制御に関する事業開発に携わっています。その中で系統解析ツールを活用した業務の一環で、PowerFactoryを扱い始めました。私が本格的にPowerFactoryの習得を始めたのは2021年度からです。

佐藤国内で電力系統解析ソフトウェアのニーズが高まり始めたきっかけは、2016年の電力小売事業が全面自由化したことで、新規事業者が増加したことです。新規事業者は、既存の電力系統を使ってお客様に電気を届けることから電力系統の状況を把握する必要があるため、電力系統解析ソフトウェアが役立ちます。
当社ではこうしたお客様のニーズに応えるために電力系統解析ソフトウェアを探していたところ、ドイツのDIgSILENT社が開発したPowerFactoryにたどり着きました。DIgSILENT社も電力系統の知識を有する企業1社を代理店にしたいと考えていたため、2021年に当社が国内の総代理店になりました。
森近年、電力系統に関わる、様々なルール変更、再エネの増加、マイクログリッドやオフグリッドという従来とは異なる利用形態の登場などにより、問題が高度化・複雑化していると感じています。研究所としては、こういった問題に対応するために、機能の豊富なPowerFactoryによる解析技術の習得に取り組み始めました。
PowerFactoryの特長は、瞬時値解析のような時間の短い現象の解析はもちろん、時間の長い現象の解析も網羅している点です。また、基本機能に加えて、ユーザーの要望に合った解析オプションを追加できるのがメリットです。
佐藤もう一つの特長は、API(Application Programming Interface)を公表しているので、外部システムや装置との連係に長けている点です。例えば、工場などの大型設備やインフラの監視制御システムと連係して、計測機器データや遮断器の入切情報を取得できます。これにより実際のシステム情報をそのまま活用して解析や制御ができるため、非常に便利です。
山下具体的な例を挙げますと、多くの他のツールでは、解析実行後の計算結果を確認するために、一度結果データをCSVファイルに出力し、その後Excelでグラフ化するという作業が繰り返されることがよくあります。しかし、PowerFactoryでは、内部の環境だけで、解析結果を多彩なグラフや系統図上に重ねて表現することが可能です。これにより、一見して理解が難しい解析結果も、手間をかけずに整理する助けとなります。また、時系列プロットや散布図といった基本的なグラフだけでなく、電圧変動プロファイルやベクトル図、保護リレーの動作特性など、電力分野特有のグラフも簡単に作成できます。これにより、解析結果の理解がより効率的に行えるようになります。
森電力系統の現象を理解するためのサンプルが豊富に揃っているので、目に見えない電気を「見える化」する意味でも可能性が広がり、使いやすいツールだと感じています。

モノ売りからコト売りへ コンサルティングに
佐藤まずは社内でPowerFactoryの理解を深めるために、部門を横断した勉強会からスタートしました。PowerFactoryを平常業務で積極的に活用してもらい、各部門の担当者からフィードバックをもらうなど、情報交換を続けています。
森
系統解析には様々な種類があります。私は以前から瞬時値解析に携わってきました。PowerFactoryでもまずは瞬時値解析から習得を進めてきましたが、それ以外にも、今後再エネが普及するにあたり必要な解析があります。その一つが、中長期潮流解析です。これは時間とともに変化する再エネの出力や、電気の使用量などの複雑な計算をして、電気の需要と供給のバランスが保てるかどうかを解析するものです。
このような私にとって経験のない解析については、佐藤さんに相談したり、社内の勉強会に参加して習得してきました。
PowerFactoryを扱っていくうえで便利に感じたことは、実際に流通している電力機器の特性が登録されているため、様々な機器や装置の特性を反映した系統解析が可能なことです。ユーザーが使用している機器を選択することで、簡単にモデルが作れるという利便性があります。
佐藤PowerFactoryは充実したサポートもユーザーに好評です。基本的に技術資料を全部オープンにしており、充実したマニュアルやチュートリアル用資料、解析に必要な計算式等を掲載したテクニカルレファレンス、他には動画配信を使った解説などが用意されています。サポートへの質問もチャット形式でやり取りでき、1営業日程度で返事がもらえます。
森 PowerFactoryのメジャーバージョンアップとマニュアルの更新も年に一度行われます。サポートで収集したお客様のお困り事は、次の年のバージョンアップに反映されます。
佐藤国内の総代理店として、ユーザーの要望に合わせた日本語の操作手順書を森さんと山下さんにも協力してもらい作成しました。この手順書を活用し、コンサルティング事業の一環としてお客様にPowerFactoryの操作説明会をしたこともあります。

佐藤PowerFactoryは当社と大学との共同研究でも使用されています。海外におけるスタンダードな解析ツールなので、海外で論文を発表するときにPowerFactoryを使用していることで再現性と信頼度が上がるのもメリットですね。また、計算結果を視覚的にわかりやすく表示できることから、電力系統の技術や用語を親しみやすく学べるという一面もあります。
山下他のツールに比べてグラフィカル要素が豊富で、計算結果をカラフルなグラデーションで出すことも可能です。解析結果を地図データと完全に紐付けて結果を表示することもできます。見せ方も電車の路線図のようだったり、地形図のようだったりと、これまでにない解析の見え方を叶えてくれるのはPowerFactoryのメリットです。

山下基本的な系統モデルの作り方は解析の種類によらず共通しているので、習得すればそこから派生して様々な種類の解析に応用でき、多彩に使いこなせることが、世界中で利用されている理由の一つでしょう。
ユーザーの目的によって、自身で制御方式を作り、その計算処理アルゴリズムをモデル化するなどの作り込みができるので、研究で必要とされる新規性や独自性という観点から、大学での研究とも相性がよいツールです。
幾つもの壁を乗り越え 安定した電力系統の構築に貢献
佐藤海外で使用されてきたソフトフェアなので、当社でも日本国内での展開より外国でのコンサルティング事業が先行しているのが実情です。
外国の代理店の領域には干渉できないため、PowerFactoryがバージョンアップする際は、現地の代理店に対応を依頼し、当社はあくまでもコンサルティング業務に徹しています。
PowerFactoryを国内でさらに普及させるためには、再エネ事業者や電力会社をターゲットとしたいと考えていますが、日本の電力会社では国内の研究機関が提供する電力系統解析ソフトウェアが主流とあって、海外製品の導入はハードルが高いのが現状です。2022年に初めて電力会社に導入することができましたが、PowerFactoryは使いやすさの点から非常に注目されているため、まだ普及の余地はあると感じています。
森最終的に“コト売り”に繋げていけるよう、PowerFactoryを使いこなして、安定した電力系統の構築に貢献していきたいと考えています。そのために必要な要素技術を着実に身につけていきたいです。
山下様々な機能が搭載されているからこそ、一度にすべてを使いこなすのは困難ですが、会社の技術対応担当として、全体的な機能の把握に努めています。特に、PowerFactoryと外部システム(設備・インフラの監視制御システム、PowerFactory以外の解析ソフトウェアなど)との連係について、より実用的な活用ができるよう精進しています。社内各部門と情報を共有しながら有効な活用法を模索し、最終的に得られた知見を、コンサルティングを通してユーザーに提供したいと思っています。
佐藤当社は、日本でPowerFactoryの販売・コンサルティングサービスを提供できる唯一の代理店です。今後もPowerFactory販売の社内体制をしっかり強化して、次のステップでお客様ごとのニーズに対応できるようコンサルティング業務を拡大していきたいと考えています。

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