エコ.Web5LiteG
- 奥苑 直昭
- 加藤 貴大
2011年の東日本大震災を契機に、電力使用のピークを抑制しようという世の中の機運が高まってきました。それまでの「できるだけ基本料金を抑えた状態で、いかに多くの電力を使えるか」という考えかたから「いかに電力消費を抑えつつ、効率的に設備を運用していくか」へ。社会の電力に対する意識が変化する中で、電力の利用状況を正確に把握する必要が出てきたのです。
そこで求められたのが、東光高岳のエネルギーを見える化する技術。今回のテーマは、電力の使用状況をクラウド上からリアルタイムに確認できる、高圧需要家向けゲートウェイ装置「エコ.Web5LiteG」。その開発に至るまでと、これからの可能性について、ご紹介します。
Technology
クラウドサービス上での電力の使用状況の把握・管理を可能にする、IoTゲートウェイの開発。
電力会社のスマートメーター導入が進展し、各社がBルートサービス※1を開始しました。東光高岳では、電力の見える化を推進するべく、Bルートを活用して高圧需要家の電力情報データを正確に取得し、クラウド上でデータを閲覧することができるゲートウェイ装置「エコ.Web5LiteG」を開発しました。
クラウドと連携することでPCやタブレットを介して簡単にエネルギー消費推移を「見える化」でき、さらにはクラウドの機能によって継続的にデータを収集・管理・分析することで、省エネや電力負荷の平準化に貢献できると考えています。「エコ.Web5LiteG」のCPUボードは、東光高岳の標準プラットフォームになり、適用シーンに合わせて拡張ボードを追加することで、多様なニーズに応えることができるような設計にしました。デマンドレスポンスやVPP※2を視野に入れた次世代コントローラにも順次採用を予定しています。
※1)スマートメーターで計測したデータを、家庭やビルの建物内に送信するサービス
※2)Virtual Power Plant(バーチャルパワープラント)の略。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入拡大と省エネルギー・電力負荷標準化による系統安定化コストの低減を目指し、地域に分散して存在するエネルギーリソースを遠隔制御(IoT)化するとともにリソースアグリゲーターが統合制御し、一つの発電設備のように機能させる仮想発電所のこと
Profile
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奥苑 直昭エネルギーソリューション事業本部
エネルギーソリューション製造部
開発グループマネージャー -
加藤 貴大エネルギーソリューション事業本部
エネルギーソリューション製造部
開発グループ
電力使用状況の「見える化」を、クラウド上で実現する。
奥苑「エコ.web」シリーズは今回の機種で第5世代になります。当社は2000年頃からビルの空調設備や照明設備を自動で制御するビルオートメーションシステムを扱ってきました。その後、エネルギー管理の観点から「設備の消費電力の見える化」ツールとして、2004年に「初代エコ.Web」を製品化しました。これにデマンド監視機能を付加したものが、シリーズ第2世代の「エコ.Web2」でした。
加藤そこから、イントラネットを介して複数の拠点を一元監視できるようにしたのが「エコ.Web3」。「エコ.Web4」では、無線ルータを接続しインターネットへの接続が可能になりました。さらにLTE無線モジュールを実装し、クラウド対応を実現したのが、今回私たちがご紹介する「エコ.Web5LiteG」というわけです。
奥苑「Lite」というのはECHONET Lite※3を認証取得し、全電力会社の高圧スマートメーターBルートに対応したことに由来します。これにより、正確な電力量を取得し、クラウドサーバでの蓄積が可能になりました。
加藤開発にあたってとりわけ苦労したのは、LTE通信モジュールの実装です。「エコ.Web5LiteG」はBルートサービスを利用してリアルタイムの電力のデマンド監視ができる仕様になっているのですが、試用段階ではどうしてもこのモジュールがうまくクラウド上のデータサーバーに接続しなくて。何しろはじめての取り組みだったので、有識者の知見を借りながら、原因を一つひとつ解明していきました。
奥苑電力会社側も初めて高圧Bルートサービスとなる会社が多く、各社の高圧スマートメータと接続確認を慎重に行いました。また、施工後にLTE通信が急に途絶えることもあり、どうしても原因がわからない時は、北は北海道から南は福岡まで、実際に現場まで赴いて調査にあたった時期もありましたね。
加藤現在はシステムも非常に安定し、当社のプライベートインターネット網に接続されていれば、簡易に工場から「エコ.Web5LiteG」のメンテナンスを行うことができます。また、取得したデータは非常にセキュアな環境でやりとりされるので、簡単かつ安全にクラウド上での管理が可能となっています。
※3)家電機器、高圧スマートメーター、太陽光発電システムなどを含む機器の制御を規定した通信規格のこと。一般社団法人エコーネットコンソーシアムの登録商標。
ビッグデータの力で、電力の需給融通システムそのものをビジネスにする企業へ。
奥苑今、私たちの管理するクラウドデータサーバ上には、すでに多くの需要家の電力使用量の推移が蓄積されています。このビッグデータを分析することで、これから新サービスや新事業の展開も期待できます。
加藤たとえば各需要家の時間帯別の電力使用量の統計をとることで、「ある時間帯に、この事業所では電力消費が激しいけれど、こちらではそれほどでもない」という電力の需要カーブを把握することが可能になります。VPPが現実的となってきた昨今、電力を融通するシステムのニーズも活性化してくると思います。
奥苑今はまだ、いわゆるエネルギーに関するビックデータを集めている状況ですが、東光高岳の目指す未来の姿は、これらのデータを分析し、電力を融通するシステムやサービスを提供することです。
加藤VPPの本質は、世の中の「電力の余っている場所」を一つの"仮想発電所"として捉えるというもの。リソースアグリゲーターは、それと同時に「電力の足りない場所」も把握することで、「余っている場所」と「足りない場所」の間に電力の融通関係を生み、電力会社や需要家に対しての経済的価値を生むことができます。
奥苑限りある資源を大切にしながら電力を使っていかなくてはならないこれからのエネルギー環境において、社会全体の電力の需給バランスがしっかりと把握できれば、その最適な使用方法もおのずとわかってきます。私たちの描くビジネスの実現は、ゆくゆく社会が抱えるエネルギー問題の解決にも貢献できると確信しています。
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