研究開発
技術者インタビュー

IEDを活用した自動開閉器用遠方制御器の開発

  • 中尾 吉克
  • 袴田 朝丈
  • 杉山 将悟

世界でもトップクラスの安定した配電系統運用技術、および配電系統ネットワーク環境を持つ日本。普段私たちが何気なく使っている電気は、確かな技術の上に成り立っています。国内では、配電の信頼度向上や、事故の際の迅速な復旧のために配電自動化システムが導入されており、配電線は区間開閉器によって適切な区間に分割されています。

東光高岳は、以前よりこの区間開閉器を自動制御するための制御装置(自動開閉器用遠方制御器:以下、制御器)の開発に取り組んでおり、この制御器によって、万が一事故が発生した場合でも、自動で速やかに事故区間を特定・分離し、事故とは無関係の健全区間に配電することができます。

しかしながら、海外、特に発展途上国ではまだまだ安定した配電系統ネットワーク環境は整っておらず、自動化システムの導入が遅れている国や地域も多く存在します。東光高岳では今回、自動制御方式として国内では広く採用されている「時限式事故捜査方式※1」に対応した制御器を、IED※2を活用して開発しました。これから海外への導入も見込まれる、電力インフラを支える技術をご紹介します。

※1)事故等による停電の際に、事故区間を発見するための方式。配電線事故が発生した場合、変電所の遮断器(CB)が速やかに開放されることで、配電線全体を停電させ、一度事故を消滅させる。一定時間経過後、遮断器を再閉路し、変電所から近い区間開閉器から順番に閉じ区間毎に復電していき、区間開閉器を閉じた際に再度停電が発生した区間が事故区間ということになる。
※2)Intelligent Electronic Device(高性能電子装置)の略称。システムの合理化、標準化を図ることができ、また内蔵機能を組み合わせて幅広くユーザーカスタマイズができる汎用性を持ち合わせる。IEC61850-2に定義。

Technology

SEL※3社製の国際標準規格IEDを活用した、海外向け自動開閉器用制御器の開発。

海外の電力業界の傾向として、変電所はIoT等の導入によりハイテクノロジー化が進んでいる一方、配電系統ネットワーク環境自体はまだまだ発展途上であり、一度事故が起こってしまうと復旧までに長時間かかるケースも珍しくありません。東光高岳は、国際標準規格を持つSEL社のIEDに、海外ではあまり普及していない時限式事故捜査方式を取り入れた新たな制御器の開発に成功しました。

この制御器が海外の配電系統ネットワークに導入されれば、事故発生時の停電時間短縮に大きく寄与することとなります。今後、海外市場への本格参入に向けて、海外の配電自動化システムに適用するための屋外試験フィールドでの耐環境試験や、海外配電系統ネットワークに多く採用されている22kV配電線での事故時応動試験を実施していきます。

※3)Schweitzer Engineering Laboratories,Inc.の略称。米国プルマンに本社。東光高岳は2013年7月よりSEL社と国内代理店契約を締結している。

Profile

  • 中尾 吉克
    中尾 吉克
    電力プラント事業本部
    システム製造部
    IEDシステム設計グループ
    グループマネージャー
    (開発時)
  • 袴田 朝丈
    袴田 朝丈
    電力プラント事業本部
    システム製造部
    IEDシステム設計グループ
    (開発時)
  • 杉山 将悟
    杉山 将悟
    電力プラント事業本部
    システム製造部
    IEDシステム設計グループ
    (開発時)

事故からの停電時間短縮のキーを握る、時限式事故捜査機能。

袴田制御器の話をするには、まず配電システム全体の仕組みの話からご説明したほうがわかりやすいかと思います。普段私たちのもとに届く電気は、発電所から変電所を経て、段階的に電圧を下げながら送られ、フィーダーと呼ばれる配電線を伝って各家庭に届けられます。この配電線は、事故が発生した時にすべての地域で一斉に停電するのを防ぐため、ある区間で分割してエリアを分けて管理されているのですが、その区間を分割し、区間ごとに配電をできるようにしているのが、開閉器と呼ばれるスイッチになります。

中尾日本の電力事業者は、一般的に多分割・多連系と呼ばれる非常に整備された配電系統ネットワークを採用しています。多分割というのは、先ほど袴田が説明したように、配電線を開閉器によって区間で区切ることで有事の際の停電エリアを減らすもの。多連系は、異なる変電所からの配電線を同じ区間に繋いでおくことにより、たとえ1つの変電所から配電線事故等で配電が不可能になった場合でも、別の変電所からの配電経路を確保しておくというものです。

袴田これらの開閉器を自動で制御する装置が、我々の開発する制御器です。もしも配電線に事故が起きた場合、大量の電流が流れて停電が発生することがあります。復旧のためには、最初に変電所のCBと呼ばれる遮断器を閉じ、変電所から一番近くの開閉器Aまで電気が通う状態にしなければなりません。それから続けて、A、B、C、と順番に開閉器を閉じていけば、区間ごとに電気が流れていく仕組みになっています。これを繰り返していくと、どこかで事故区間にたどりついて再び停電が発生しますので、結果的に事故区間を特定することができるのです。その後、該当区間を使用せずに配電系統を繋ぎ直すことによって、停電を解決する仕組みになっていますが、この一連の流れにはスピーディな開閉器の操作が必要となるため、制御器が重要な役割を果たしています。

中尾このように時間を管理しながら事故区間を突き止める機能のことを、時限式事故捜査機能と呼んでいます。整備された日本の配電システムでは、この機能は旧来使用されているものなのですが、実は海外諸国、特に発展途上国ではまだまだ電力インフラが整備されていない国も多く、日本の電力に対する技術力は、非常にニーズが高いと言えます。

発展途上国の、電力インフラの未来を支えていくために。

杉山当時、時限式事故捜査機能を持つ国内向けの制御器は日本独自の規格で開発されているものしかなく、海外での展開は難しい状況でした。この事故捜査機能をSEL社の持つIED機器に反映し、海外での展開を見据えて国際標準規格に沿った制御器をつくることが、開発当初からのミッションだったわけです。今回の制御器に採用したIEC61850と呼ばれる国際通信規格は、国内ではあまり普及していないもので、私はこのプロジェクトに2年ほど先駆けてIEDカスタマイズ対応の調査・研究をスタートさせていました。

袴田国内であれば、「こういうものが欲しい」というようなオーダーに応えて製品化を進めていくケースが一般的なのですが、海外で展開するとなると、そのニーズから自分たちで仮説を立てていく必要があります。時限式事故捜査機能に最低限必要な要素を満たした上で、どこまで海外仕様にアジャストできるか。机上でロジックを組み立てては、テストケースで検証を重ねていきました。

杉山SEL社の仕様に当てはまるように製品化を進めていかなくてはならなかったので、ひたすら英語のマニュアルを使って勉強するのは、根気のいる作業でしたね。

中尾前述したように、日本では配電線の多分割・多連系が当たり前で、制御器を含めた配電自動化システムも整っているので、たとえ停電が起こっても復旧までにそれほど長時間かかるケースは多くありません。しかしながら、海外では一度停電が起こってしまうと、まずどこで事故が起こったのかを調査するために、人の足で現場を特定するところからはじめなくてはならない。当然復旧にも時間がかかってしまいます。事故区間発見までの時間をどれだけ短くできるかという課題は、そのままその国の電力インフラの課題とも考えられるわけです。

袴田今回開発した制御器は、JICAの「開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業」の一貫として、2018年秋にはフィリピンに導入される予定です。現在はその実装に向けて社内のテスト環境で半年以上試験を続けています。

杉山現地への施工が完了したとしても、ただ停電が起きて、それを復旧させて、ということではよりよい電力インフラ環境を提供することには繋がりません。SEL社のIEDは高機能なもので、電流電圧だけでなく、配電系統の電力、周波数等、様々な情報を計測する機能が搭載されています。そのデータを統計的に分析すれば、たとえばその地域でどれだけ電気を安く提供できるかというような、電力インフラのコンサルティング事業にも発展する可能性も見えてきます。

中尾日本では、24時間365日いつでも電気を自由に使えることが当たり前ですが、世界を見渡せばまだまだ安定して電気を使えない国もたくさんあります。私たちの開発する開閉器や制御器は、電気に不自由する人々を助ける未来への灯りでもあるのです。

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