研究開発
技術者インタビュー

エネルギーリソースのメーカーや機種に依存しないディマンドリスポンス制御装置の開発

  • 細谷 雅樹
  • 佐藤 祥輝

2011年3月11日に発生した東日本大震災を機に、日本の電力需給を取り巻く環境は大きく変化しました。原子力発電所が順次運転を停止したことで、経済産業省から電力使用制限令が発令されるほど深刻な電力不足となりました。

こうした状況を改善するべく、太陽光発電や蓄電池などの需要家側に導入される小規模エネルギーリソースの普及が進んでいます。IoT(Internet of Things)を活用したエネルギーマネジメント技術によりこれらを束ね、統合制御することで、電力の需給バランスを調整すること(ディマンドリスポンス:以下、DR)が可能となります。

一般的に需給バランスの調整に大きな影響力を持つ蓄電池システムを遠隔 DR に対応させるためには、メーカーや機種ごとに異なる改造対応をする必要があります。そこで、東京電力エナジーパートナー株式会社がメーカーや機種に依存せずに蓄電池などのリソースを遠隔 DR 制御する仕組みを開発しました。東光高岳では、この技術を実現するための機器であるDR 制御装置(以下、DR shifTer※1)を開発しました。日本の電力需給状況の改善に貢献する新たな技術をご紹介します。

※1)DR shifTerは、東京電力ホールディングス株式会社の登録商標

Technology

蓄電池システムの負荷追従機能を利用したDR shifTerの開発

政府からの節電要請がありながらも、これまでの節電対応策は一部の照明を落としたり、空調の設定温度を調節するなど、人手によるものがほとんどでした。この方法では需要家側の労力が嵩むだけでなく、節電効果も十分ではありません。東光高岳が開発した"DR shifTer"は、蓄電池システムの負荷追従機能を利用し、DR指令発動時に遠隔で蓄電池を放電させることができるため、この問題の解決に向けた大きな一歩となります。

環境保全の観点から再生可能エネルギーの利用が進み、電力系統にも接続されるようになりました。この再生可能エネルギーは気象条件などにより発電量が左右されるため、供給可能な電力の予測は難しく、再生可能エネルギーが導入される以前より発電量予測の誤差が発生しやすくなっています。予測とのずれにより発生した突発的な電力過不足への対応という点においても、DR shifTerへの期待は今後さらに高まっていくものと考えています。

Profile

  • 細谷 雅樹
    細谷 雅樹
    技術開発本部
    技術研究所
    ICT技術グループ
  • 佐藤 祥輝
    佐藤 祥輝
    技術開発本部
    技術研究所
    ICT技術グループ

負荷追従機能を利用して、必要に応じた放電を可能に

細谷事のはじまりは2017年5月。東京電力ホールディングス株式会社殿から、『需要家の方の蓄電池をはじめとする電力リソースを遠隔DRで制御したい、そのための装置を一緒に開発してほしい』と相談を受けました。電力システム改革における需給調整市場構築に向けて東京電力ホールディングス株式会社と東京電力エナジーパートナー株式会社で検討されていて当社にお声かけいただいた形です。

佐藤従来、エネルギーリソースごとに個別のカスタマイズをすることで遠隔でのDR制御をしていたのですが、これでは導入のハードルが高すぎます。どのような機種でも同じ仕組みで制御することで広く普及を促し、電力需給状況を改善したいというオーダーでした。

細谷なぜ、遠隔制御が電力需給の改善に繋がるのか。そこにはVPP※2という概念が関係しています。需要家の方々がお持ちの蓄電池や発電機をはじめとするエネルギーリソースは小規模なものですが、これらを統合することで発電所のように機能させようという考え方です。これを実現するには、各種の蓄電池や発電機を統括して遠隔制御する必要があり、そのために開発したのが、DR shifTerです。蓄電池システムには、需要家設備の契約電力の超過を防ぐため負荷追従機能が実装されています。これは、受電側電力計で計測した受電電力をアナログ信号などに変換し、受電電力値が設定された負荷追従しきい値を超えた分、蓄電池を放電させる機能です。受電側電力計と蓄電池システムを接続しているアナログ信号線間にDR shifTerを追加することで、電力需給がひっぱくした際にDR shifTerが受電電力値にDR指令値を考慮した計算値を加えて蓄電池システムへ通知して、負荷追従しきい値を強制的に超過した状態を作り出し、放電を行うことができるという仕組みです。

佐藤遠隔からのDR 指令に対応する形でオフセット追加の指示が出されますが、これを受け取るためのOpenADR※3通信を行っているのが、エコ.Web5というコントローラです。1 分周期で受電電力量や蓄電池残量、蓄電池充放電電力をレポートする機能も備えているため、上位アグリゲーターのシステムでは、DR 制御の状況確認や、蓄電池DR指令量の調整をすることが可能になります。このコントローラは以前開発した当社の製品であり、従来はビルの管理などに使われていたものをカスタマイズして流用しています。当社の培ってきた技術を活かすことで、DR shifTerの開発は実現したのです。

※2)Virtual Power Plant(仮想発電所)の略語
※3)OpenADR は、OpenADR Alliance の商標

日本の電力需給状況を改善していくために

細谷指令を受け取り、電力値を変更して通知する。仕組みだけ聞けば簡単に思われるかもしれませんが、開発までには多くの困難を乗り越える必要がありました。最初に頭を悩ませたのは、試験環境の構築です。実際に使用される蓄電池や発電機の機種は多岐にわたりますが、当然その全てを取りそろえることはできません。そこで、自分達で模擬装置を開発しました。コンピューターに現実環境での使用電力を想定したプログラムを入れることで、複数の変数を考慮しながらシミュレーションできる環境を構築しました。出力する数値も、現地の受電電力を調べ、想定される数値は全て試した上で、実際に需要家の方の設備に設置しました。この時、2017年11月。ご相談いただいてから、わずか半年での納品でした。

佐藤現地への据え付け後もブラッシュアップを重ねました。大きなところでいえば、逆潮流の防止機能の追加です。あらゆる環境を想定してシミュレーションを行いましたが、その想定よりもさらに受電電力が低い環境においては、放電を行うことで受電がマイナスとなり、電気が逆流してしまう逆潮流が起きると判明したのです。電力系統に悪影響を及ぼす可能性がある逆潮流を防止するため、設置環境ごとに放電限界値を定めることのできる機能を追加しました。

細谷まだ改善の余地があることは事実ですが、DR指令値に対する制御精度の高さには自信があり、実際に国の実証試験※4に参加した際は、DRの成功率が高く、東京電力エナジーパートナー株式会社殿からお褒めの言葉をいただきました。すでに10台ほど需要家の工場への設置も完了しており、導入実績は今後も増えていくものと考えています。そのためにも、さらに高い精度を実現するべく、現場からのフィードバックを開発に活かしていきたいです。

※4)一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)の委託による実証事業

佐藤精度の向上は、DR shifTerという製品の性質上、義務でもあると考えています。VPP実現のためには、膨大な数の設置が必要となります。一つひとつの誤差はわずかでも、それが多くのDR shifTerにより累積されていけば、所定の効果が得られない可能性もあります。その責任と影響力の大きさを担う気概を胸に、精度と操作性の向上に貢献していければと思っています。その成果により、多くのアグリゲーターの方々からDR shifTerが選ばれ、日本の電力需給状況が大きく改善されると信じています。

最新の記事

ページの先頭に戻る