技術者インタビュー

災害に備える電力レジリエンス強化に向けた72kV移動用開閉装置・制御盤の開発

  • 岡村 裕之
  • 吉田 貴紀

災害や設備更新のときでも、電力供給を継続することが求められます。特に、災害に備えるレジリエンスの強化を目的とした電力インフラ設備の管理は大きな意義があります。都市部の変電所が抱える課題に向き合いながら、その使命を果たすために開発されたのが、トラックで運搬し、荷台から下ろして使用できる移動用開閉装置・制御盤です。最大質量や輸送条件といった厳しい制限の中で、異なる部門の開閉装置と制御盤の開発者が一体となり、今回の小型軽量化に挑戦しました。災害対応機器としての責任と誇りや、その裏側にある多くの苦労や工夫を、開発に携わった2人の言葉からひもときます。

Technology

小型軽量化を実現した移動用開閉装置・制御盤

頻発する自然災害や電力インフラ設備の高経年化に対応するため、設備事故時の早期復旧や電力インフラ設備更新時の送配電維持が求められています。そこで、災害や設備更新のときでも電力供給を継続するため、現地へ迅速に持ち込み、仮設で電力系統をつなぐ移動用開閉装置(以下、開閉装置)と、開閉装置の操作・状態表示・故障表示および系統保護などを担う制御盤を開発しました。本開発では、従来の車載型(トラックに固定)ではなく、可搬型(トラックから荷下ろしできる)とすることで、都市部のような狭隘な変電所にも設置できる小型・軽量化を実現しました。

開閉装置は、車載型の設計を活かしつつ、構成を見直して高さを低減しました。さらに、タンクの材質を鉄鋼材からアルミニウム材に変更し、強度解析による板厚の最適化を行うことで、クレーンで吊り上げ可能な3.3トン以下の質量制限を満たしています。遮断部には真空バルブを採用し、タンク内のSF6ガス(※1)圧力を低圧力で構成することで、輸送時のガス減圧を不要とし、環境負荷低減にも配慮しました。

移動用開閉装置(左)と制御盤(右)の外観

制御盤の構造は、制御対象が開閉装置に限定されたことで、従来の三面構成を一面構成としました。迅速な復旧対応が求められる災害発生場所での設置を想定し、制御盤内に作業スペースを設け作業性を考慮、かつ、地震により転倒しないことも考慮した結果、極端な小型化はせず最適な外形としました。制御機能は、既設設備を最大限活用しながら移動用機器に切り換えるため、移動用機器として必要な機能に限定しました。搭載した保護リレーは、装置の使用前後に行う点検や整定変更後の整定値確認を簡素化し、対応時間を短縮できるため、緊急時にも使用しやすい設計としました。

※1 SF6ガス:六フッ化硫黄ガス。温暖化係数がCO2の23,500倍と大きいが、高い絶縁性能を持つため電力機器に使用される。

Profile

  • 岡村 裕之
    岡村 裕之
    電力プラント事業本部
    第一設計部
    開閉装置設計グループ
  • 吉田 貴紀
    吉田 貴紀
    電力プラント事業本部
    第二設計部
    制御装置設計グループ

移動用開閉装置・制御盤の開発経緯

岡村開閉装置は、変電所の変圧器などの設備を保護するために必要な機器となります。移動用開閉装置は以前からありましたが、従来はトラックに載せたまま使用する車載型が当社において主流でした。今回の可搬型の開発は、お客様から「トラックから荷下ろしできるタイプの開閉装置がほしい」というご要望をいただいたことがきっかけです。都市部にある変電所は敷地が狭く、トラックに載せたまま比較的長期間その敷地で使用するのが難しい場所も多くありますが、荷下ろしして使える可搬型にすることで、そうした現場にも対応できます。

一方、可搬型にすることで、最大質量や輸送条件といった制限が一気に厳しくなりました。特に大きかったのが質量です。現地ではクレーンで吊り下げることが前提になるため、「3.3トン以下」という条件が絶対でした。質量低減のために、タンクの材質を従来の鉄材からアルミニウム材に変更しました。材料強度については構造解析を行い、タンク内のガス圧力による変形などを評価し、最適な板厚と補強位置を決定して構造設計をしました。

また、災害時などの緊急用設備として、特殊車両通行許可申請(※2)が不要となる輸送条件を満たすことも重要でした。そのための小型化については、お客様と構成要素を協議し、高さを下げられるよう検討を進めました。

吉田私が開発を担当した制御盤は、開閉装置の操作・状態表示・故障表示および系統保護などを担う装置です。今回の開発では、従来の移動用制御盤の設計を参考にしつつ、運用方法の変更に合わせて構成を見直しました。以前はトラック上に搭載したアルミパッケージ内に複数面の屋内盤を収納する形態でしたが、今回は荷下ろしが前提となるため屋外仕様とし、最適な外形とするために三面分の機能を一面に集約しました。災害時に使う前提で変電所の既設設備や開閉装置などと接続する配線の数を厳選し、表示や操作がわかりやすくなるよう配置を工夫しています。

※2 特殊車両通行許可申請:道路法で定められた特定の条件(特殊な構造の車両や車両の大きさ,重さなど)を超える車両が公道を走行する際に必要な許可を得るための手続きのこと。

関係部門の連携が実現した 開閉装置と制御盤の技術的連携

岡村開閉装置は先行して開発する場合もありますが、今回の開発では、開閉装置と制御盤を、早い段階からひとつの装置として設計検討を進める必要がありました。開閉装置の仕様や開閉装置と制御盤の接続条件が決まらないと、制御盤は設計に入れない部分も多いので、情報をどこまで早く、正確に共有できるかが重要だったと思います。

吉田制御盤の設計は、開閉装置がどういう構造で、どういう条件で動くのかを正確に把握するところからスタートしています。疑問点や不明点があればその都度岡村さんたちに確認して設計を進めました。

岡村車載型はトラックに固定して使っていましたが、可搬型のようにトラックからクレーンで下ろして使う開閉装置は、社内では前例がありません。機器の高さや、質量の制約、転倒しないことなど、これまであまり意識してこなかった条件を一つずつ検討する必要がありました。移動用のため通常実施される基礎固定がされないため、地震発生時に転倒しないようベース(架台)を転倒方向に対し延長した構造もその中で新たに盛り込んだ要素です。

吉田制御盤も基本的に据付けが前提の機器なので、今回可搬型の制御盤を開発するにあたり従来生じていなかった課題について新しく検討する必要がありました。例えば震度7相当の揺れがあっても、コンクリートや芝、土といった設置場所を問わず、安全に使えるというものです。これをクリアするために「お神輿のような構造なら転倒しづらいのでは」という発想を起点にベースの形状を考え、かつ輸送時にはベースを着脱できる構造としています。

また制御盤は使用時に必ず既設設備と接続の互換性が必要ですが、その条件が現場ごとに違うことが大きな課題でした。一時的に使用する機器であるため、その場に応じた回路がつくれないと必要とする設備へ電源を供給できません。各設備との接続口の数や接続の条件を事前にお客様へヒアリングし、どの場所に持ち運んでも使えるような設計を意識しています。想定する設備や必要な条件を確認しながら、幅広い現場に対応できるように進めました。保護リレーをディジタル形としたことで、使用前後の点検内容や整定変更後の整定値確認が簡素化でき、緊急対応の時間短縮につながっています。

岡村開閉装置も、お客様との協議が非常に重要でした。お客様から頂いた最初のご仕様を満足できないものもありますので、その点を協議しつつ設計をすすめました。実現の難しい仕様に対しては、データや評価結果を示してご説明し、お客様が検討しやすいようにご提示しました。

吉田また今回の開発で印象的だったのは、開閉装置と制御盤を自社工場内で実際につないで動かせたことです。通常はサイズの問題で接続・動作確認は現地が初めてとなることが多いのですが、今回は可搬型のため開閉装置工場に制御盤を持ち込み、制御ケーブルを接続して動作を目で見て確認できました。設備が大きいと、設計しても実際に動作するところを見る機会は限られます。今回は「一つの装置として成立している」ことを実感でき、設計者としてのモチベーションにもつながりました。

災害対応機器としての責任とその先に見据えるもの

岡村災害時に使われる設備ということで、電力供給を安定的に継続できるかどうかは、人の暮らしや場合によっては人命にも関わってくると考えています。電気が来ることは当たり前のように思われがちですが、止まったときの不便さや不安は非常に大きいので、その「当たり前」を支える部分に関われたことは、この開発で一番やりがいを感じた点です。

吉田災害が起きないことが一番ですが、災害が発生したときに確実に機能する設備を用意しておくことも重要だと思っています。今回の装置は、出番が少ない方が望ましくはあるものの、電力供給が止まらないように支える設備の設計・製造を当社が担い、信頼して使っていただけることは、電力インフラを通じて社会に貢献できている実感があります。

岡村今回の取り組みは、日本電機工業会(JEMA)から「電機工業技術功績者表彰」の奨励賞という形で評価もいただきました。災害時の電力供給安定化に貢献するレジリエンス強化という点が評価されたと受け止めています。

吉田今回は岡村さんと私が代表で表彰されましたが、実際には私たちだけでなく、タンクの構造設計や制御回路の確認、試験を担当したメンバーなど、多くの関係者の協力があっての成果です。この取り組みを評価いただけたことはありがたいですね。

岡村今回の開発で非常に多くの経験をさせていただきました。その経験を活かしお客様の期待に応え、電力インフラを支える機器開発にさらに繋げていきたいと考えています。また災害が頻発する背景として、地球環境の変化も無視できないと思っています。そうした状況を踏まえると、環境への配慮がこれまで以上に求められる時代となっており、今後はより環境負荷低減を意識した、機器開発にも繋げていきたいと考えています。

吉田電力インフラを担うメーカーの技術者として、お客様の声や困りごとにきちんと向き合い、それを解決する製品を提供できる存在でありたいです。社会や環境の変化に合わせて求められるものは変わっていくと思いますが、過去の事例にも学びながら発想力を磨いていきたいです。

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